52.
リリアナも先生たちのような価値観なのだろうか。今までそんな素振りはなかったけれど、私はリリアナをほとんど知らないから、ないとは言えない。
「ハゼルトだから、と済ませるのは簡単ではあるが納得しないじゃろう。しかし、そういうものと割り切るしかない」
「割り切るしかないって……」
「先天的なモノを治すのは不可能だ。リリアナ嬢に関しては完全に隔離されて育ったからか価値観のズレが大きいしな」
「お兄ちゃんは知ってたの?」
「ニーチェルはハゼルトと国の関係を保つ役割があるからな。親父に聞かされた」
アストロさんには伝えられていてティアナに伝えられていないのは、ティアナがニーチェル公爵家を継がずに嫁入りするから。徹底的に情報が流出するのを避けるため。
「そもそも、俺らがここで何を言おうが変わらないだろ」
「そうだけど……」
「てことで、俺は先に失礼します」
「俺も。リリーのとこ行かねぇとだし」
アストロさんも何気に自由な人だな? ゼクトも出てっちゃうし、この空気はどうするの。
「じゃ、自分たちも帰るね。論文書かないとだし」
「その前に集計手伝えよ」
あっちはいつもだからいいけど、本当にどうするの。気まずいよ。
「私たちも帰りましょう。いい時間だし、長居は校長先生に悪いですから」
「何か困ればまた来なさい。できるだけ力を貸そう」
教室に戻り、荷物をまとめて帰ろうとすると、クラリッサさんに呼び止められ、少し話をしたいと言われた。いいけど、いつからいたんですかあなたは。
殿下たちには先に帰ってもらい、教室には私たちだけ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
そう言って、令嬢は絶対しないだろうに、机に腰をかけて話し始める。
「あれの通りならどうしようかと思ったけれど、そうじゃないみたいだし、あなたのことをどうやら私はよく知ってるみたいなのよ」
私のことをよく知ってる? 私たち今年初めて会いましたけど、誰かと勘違いしてませんか。
「勘違いじゃないわよ。だって」
次にクラリッサさんが紡いだ言葉は、この世界にはないもので、
『私の可愛い後輩だもの』
とても懐かしい日本語だった。
やんわりとしたクラリッサさんの仕草には見覚えがあり、日本語を使っている時点で私と同じ転生者。そして、私のことを「後輩」と呼ぶのは一人だ。
「お久しぶりですね。千佳先輩」
浅野千佳先輩。高校の先輩で仲が良く、私と同じ事故に遭った人。たまに私のことを「後輩」と呼んでいたのもあって分かったけど、千佳先輩じゃなきゃ名前言ってもらえないと分からなかったと思う。
「久しぶりに日本語使ったけど、やっぱり難しいわねぇ。口が慣れてないからかしら」
「少しだけ聞き取りにくいですしね」
十五年近く経っていればさすがにか。それにしても懐かしい。ここにあの二人もいれば、またバカ騒ぎできるってのに。
「先輩もいるってことは、あの二人もいますかね」
「いたとしても、あの子が心配よね」
「なんか、お世話されてそうですね……」
私たちともう二人、事故に遭ったのがいるのだけれど義兄妹で、兄はちゃんとしてるのだが、妹の方が世話されることに慣れてるためか自分でやるってことをあまりしない子なのだ。そのため、不安だけど令嬢になってたら大丈夫だろう。平民………だとしても、きっとあいつが見つけるだろ。そんな気がする。




