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47.




前に会ったときとは雰囲気が違う。これ、かなり怒ってる。


「リリアナ嬢、大丈夫かい?」

「……一度殴られただけですので」

「聖女、癒しておけ」


ラテさんにそう言って、教師の方を見る。教師は気持ちの悪い笑みを浮かべたままで、「やってやった」だの「これで私は」と何やら言っている。


リリアナが咳き込み、少し違和感を感じていると、口を押さえていたリリアナの手には、血が……。


「魔術師様! リリアナ様の体内に毒が」

「進行止めとけ。そのくらいできるだろ」


毒魔法。この教師、リリアナになんの毒持った。まず、解毒が可能なのか?


「お前さぁ、何したか分かってんの?」

「ハゼルトは毒程度で殺られん! 双子の悪魔が証明している!」

「あいつらが毒に耐性持ってるのは死なねぇようにそういう訓練してんだよ。公爵令嬢であるあの子がそんな訓練してるワケないだろ。お前のやったことは次期国母の殺人未遂だ」


そう言われて教師は顔を次第に青く染めていく。そこまで考えていなかったのだろう。リリアナはハゼルトである以前に殿下の婚約者。次期皇后であり国を背負う存在。ハゼルトならばやってもいいという問題でもない。


「何よりさぁ。彼女は魔塔としても貴重だし、この国が隣国と友好なのもこの子がいるからだよね? あそこの王族と縁者のこの子がいるからこそ今の協定あるって分かんない?」


国力であればこの国よりも隣国……クロフィムの国の方が大きい。それでも対等なのは先代ハゼルト侯爵があちらの王女殿下を娶ったため。あちらはリリアナのことを可愛がっているというのはこっちでも有名な話だ。


騒ぎを聞きつけた他の先生たちがテストを中断してこちらに来て、何があったのか聞いてくる。なんなら先生が連れてきたのかゼクトたちいつものメンバーもいる。


「姪、大丈夫か」

「ラテ様のおかげで……。毒も中和できました」

「ゼクトこいつ拘束。つか校長呼べ。何してんのあいつは」


リリアナはしれっと毒中和してるし、メルトさんはかなりキレてるし先生何も言わないし。


「離せ! 触るな!!」

「おとなしくしろっての」


ゼクトが力ずくで押さえつけると抵抗し始める教師。生徒の前で恥ずかしくはないのかこの人は……。


「薄汚れた孤児風情が私に触るな! ゴミが!!」


ゼクトは確かに孤児だ。ゲームでも触れられていたし、ゲーム内のゼクトがヒロインをイジメるとき、良心に触れたときに少しだけ吐露していた。孤児で拾われの身である自分のせいでリリアナが悪く言われることを恐れていると。

リリアナ自身がゼクトを大切にしていることはこの数ヶ月見ていて痛いほど分かる。


「リリーちゃんまだ動いちゃ」

「【重圧(グラディア)】」


リリアナの魔力が動いたことに察したゼクトは間一髪で避け、教師は地面にめり込む。


無詠唱で魔法陣も使わない超高難易度の魔法。


生まれながらの魔術師たち同等レベルの圧倒的な魔力量と魔法の才。この国の筆頭公爵家の血筋と魔術師を最も多く輩出している神々に愛されたハゼルトの血筋であり、魔術師たちからの信頼も厚い存在。


その怒りに触れることは、死を意味すると同義だ。






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