4.
入学式から数日。
ティアナが隣にいるということもあり、リリアナたちと仲良くなった。攻略対象たちと一緒にいるといつフラグが立つか怖いけれど、普通に一緒にいて楽しいし、しょうがないよね。
このまま平和が続くといいな、なんて思っていたが、やはり無理なようだ。いやぁ、本当に、これなんてフラグだろうね。そんな現実逃避をちょっとしている私は現在、四名の令嬢に囲まれている。全員侯爵家だし、クラスとかのことだよね。
「あなた、調子に乗りすぎよ」
「シティアル公爵令嬢と仲が良いようだけれど、どうせすぐ飽きて捨てられるのがオチだわ」
皇太子殿下たちといることではなくリリアナといることを突いてくる辺り、なんだかな。
リリアナは基本的に穏やかだ。ゲームでもやんわりとしていた。けれどやるときはやる子。公私の区別くらいする。だからこそ、この人たちは目上であるリリアナを下に見ているのだろう。公共の場であれば、自分が害されることはないと。
「権力で無理やり皇太子殿下の婚約者になったあんな女なんて」
「いつか皇太子殿下に捨てられる」とでも言いたかったのだろうが、それは叶わない。
令嬢たちの横に、木剣が刺さったからだ。
「……あぁ、すまない」
「数人がかりで一人を囲むとは、何かの悪戯かな?」
短く謝ってきた闇を凝縮したような漆黒の髪と瞳を持つ少年と、ティアナと同じ薄紫色の髪と瞳を持つ少年。
リリアナの専属従者であるゼクトと、ティアナの兄で時期ニーチェル公爵であるアストロ・カティア・ニーチェル公爵子息。
「……な、何故こちらにお二人が?」
「少し身体を動かしたくてね」
二人に見られたのはまずいと思ったのか、令嬢たちは逃げていった。こういうとき、逃げ足異様に速いのってコミックとかの世界だけじゃないんだね。まず令嬢が走るのはどうなのかと思うけど。
「ご令嬢、怪我は?」
「ないです。その、ありがとうございます」
「いえ、妹らが世話になってますから」
公爵子息、ゲームではあまり登場しなかったけど、いい人なんだろうな。わざと剣をこっちにやった感じがするし。
「おい、速くしろ」
「お前、少しは猫被れよ…」
「あいつらが言ってたのこいつだろ。猫被ったところでどうせだ」
何やらイラついている様子で、ゼクトは公爵子息を置いてどこかに行ってしまう。剣持ってたし、二人で稽古してたのかな。
「すまない。また今度会うだろうから、そのときちゃんと話そう」
今度会うって、なんで?
そう聞く前に公爵子息は帰ってしまい、意味は分からない。そろそろ授業が始まってしまうから急いで教室に戻ると、本当にギリギリだった。
「息上がってるけど大丈夫?」
「ちょっと、走ったから……」
「次、伯父様の授業ですけど大丈夫ですか?」
それは大丈夫じゃなさそうです……。ハゼルト侯爵の授業は本当に鬼畜。
最初の授業では、地面に突き刺したナイフを魔力の塊を当てるだけで抜くという、力業でやれば簡単にクリアできるものだった。そのはずなのに、簡単だろうからと侯爵の魔力込めて、難易度は一気に上がった。席順……もっと言えば成績順で、このクラス……というか、ゲーム内で魔力が一番多いとされてるリリアナが初めにやってびくともしなかった時点で大半が絶望。ギリギリ上位三名がクリアできたくらい鬼畜なのだ。
「終わった…」
「頑張れ~」
「ティアナもですよ」
「私はだって、もう無理って分かってるから」
そこは諦めずに頑張りなさいよ。諦めが良すぎるよ。