38.
ラテさんは当然だけれど、授業はかなりキツそうだった。クロフィムはこっちの魔法学の方が進みが速いらしく困っていたけれど、他の授業は大丈夫そう。魔法学の進みが速いのは先生が原因なんだけどね。
「君がカトレア嬢か。噂はかねがね。フォールトです」
「アイリス・ディア・カトレアです」
放課後になるといつもの三年生メンバーに加えてクロフィムのお兄さんで隣国の王太子であるフォールト・フィル・ヤーナルド王太子殿下もやってきた。
「再従妹殿は相変わらずの背丈だね」
「相変わらず無駄に図体が大きいですね。縮ませてあげましょうか?」
「やるなら屋敷でやってくれ……」
ユラエス、そこはとめて。分かるけどさ。この二人の相手が大変なのは分かるけど、シティアルはユラエスが諦めたら終わりなんだよ。
「お二人って仲悪いんですか」
「仲は悪くないよ。リリアナちゃんとフォールトくんいつも楽しそうだし」
オリヴィエさんにはこれが楽しそうに見えるんですか。私たちには喧嘩してるようにしか見えないですよ。
「……聖女殿見に来たんだよな?」
「えー、私はもういいよ。相性が合わな……ったいなぁ!」
「いずれお世話になるかもしれない相手にそんなこと言わないでください」
「再従妹殿だって興味なさそうじゃないか!」
「興味がないのと失礼な態度を取るのは別でしょう」
リリアナ今ラテさんに興味がないってハッキリ言ったね。二人とも、せめて隠そうよ。ラテさん困ってるから。ユラエスとか頭抱えてるからね?
「リリー、シエル」
「今日用事ないはずですけど」
「候補のやつ」
「……なんかありましたっけ」
リリアナ。まさかだけど用事忘れてて先生放置とかないよね。やってたら先生ぶちギレだと思うんだけど。
「魔塔」
「……あぁ、そういえばありましたね」
「……え、魔塔の用事ほったらかしてるの?」
「正確には伯父様が投げてきた案件の報告書を今日提出なのをまだ出してないだけです」
今すぐ出してきなさいよ。先生もリリアナに何やらせてるの。
リリアナはゼクトに連れていかれ(本来ならば先生がやることなんだけども)、今日は解散となった。
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満点の星空を眺め、とある人物を待つ。
まさか、あいつがここに来るとは思っていなかったけれど、話をしに来るでしょうね。
「おやおや、こんな時間に外出していいのかい?」
「あんたこそ、こんな時間に出てきたとバレたら叱られるわや」
そんなヘマするワケないだろうと笑顔を向けてくる。相も変わらず気味の悪い笑顔だ。こいつとはそりが合わない。
「それで、なんのつもり」
「何が?」
「なんでいるのかって聞いてるの」
「お前なら分かるだろ?」
「お前と一緒だよ。理由は少し違うけどね」と人差し指を口元に持っていき、外面の笑顔を作る。
本当に相変わらずだ。こいつは読めない。だから嫌いなのだ。昔から、こいつもあいつも。
「何人か同じのがいる。悟られるなよ」
「しないわよ。そんなヘマ」
月明かりに照らされ、藍色がハッキリと見える。今のとは違う、本来の色。誰もが綺麗と言うだろうその色を私たちは深紅に染めた。こいつの色だけではない。私の色も、他の色も、たくさんの色を。
「ハゼルトには気をつけろよ」
「言われずとも」
なんにせよ、やることは変わらない。私は、私のやるべきことをするだけだ。




