36.
少し書庫の奥に行って本を読み始めるけど、問題発生。
「これ何語?」
「あ、そういえば古語ですね」
しれっと言ったね。古語ってもう失われた言語のはずなんですが、なんでそういえば他の人は読めないんだっけみたいな顔をしてるのかな。
「ハゼルトだと古語は基本なので」
「ハゼルト基準にするのをまずやめようか」
《今の人間は古語も読めぬのか》
しれっと出てくるんじゃないよ蛇もどき。お前が出てくると私の魔力が減り続けるんですけど。
《姫の民、共有の魔法は使えるか》
「使えますよ」
《ならば我の知識を小娘に共有しろ》
リリアナが魔法でやってくれたため、なんとか読めるようになったけど、これ長いな?
「……持ち帰りはありですか」
「まぁ、読めないわな」
分厚いし、今はやめておこう。持ち帰ってゆっくり読もう。
「あ、終わった?」
「基本は」
今来たんですか。精霊との会話のときこそ、いてほしかったんですが。
「……姪っ子殿怒ってる?」
「怒ってませんよ」
「誰だよ怒らせたの」
リリアナの言葉は信用ゼロと。怒らせたのは精霊ですよ。先生たちは飛んでる精霊見るけど、全員巻き込まれるのはごめんだと逃げていく。逃げ足はとてもお早いようで。
「何言われた」
「……【幻音の悪魔】に気をつけろと」
「音ね」
……一瞬だけ、公爵の顔が曇ったのは気のせいだろうか。みんな気づいてないし、大丈夫……なのか?
「ジンか」
「よく分かりますね」
「姪に物言うのは大抵あいつだ」
「よく分かってますねぇ」
クスクスと笑うリリアナの頭を乱暴に撫でて、ジンを呼ぶ先生。怒ってるんだなと分かるほどには魔力が溢れてる。
「荒れますね。帰りますか」
「え、先生は」
「ジンと殺り合えば大丈夫ですよ」
今、殺し合いって単語が遊ぶの副音声で聞こえた気がするのは気のせいかな? 先生でも精霊と殺し合い始めたらただじゃすまないよね。
「シエルはこっちでなんとかするから、君らはもう帰りな。くれぐれも、他の奴らに自分のことを言わないように」
そう言って帰されてしまう。ユラエスはすまないと謝ってくるけど、ユラエスのせいじゃないんだよなぁ。どちらかというと、謝るのはリリアナの方というか、もっと言えば先生で。
「……ゼクト、帰り少し遅くなります」
「嫌だが?」
「拒否権あると?」
「クソが」
リリアナはリリアナで何かしようとしてるし、大丈夫なのかなこれ。明日また学院だけど。
「もうやだこの家族」
「ユラエスくんが諦めたらシティアル終わるよ」
一番苦労してるんだよなぁ。父親は仕事で帰ってこないし、妹は幼馴染み連れて伯父のとこに泊まり込みザラだし、伯父は伯父で不定期で来ては変なことして帰ってく一番質悪いやつだし。




