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35.




使用人の人と会ってから数分。ようやく着いた。

我が家もまぁまぁな広さしてるけど、やっぱり侯爵家になると規模が違う。部屋の数は変わらなそうだけど、部屋の規模が違うんだろうね。入ってないから分からないけどさ。


「これまたずいぶんと面白い」


書庫はとても不思議で、部屋を照らすライトは宙に浮いていて本は空を飛び自ら本棚へと収納されていく。白や黄や赤などの様々な色の小さな光があちこちを飛び回っている大図書館はファンタジーそのもの。


「ジン、いますか」

《ここにいるぞ》


飛んでいた光の中でもかなり大きい黄緑色の光から声がした。近付いて来ると光の形が変わり、鳥の姿へと変わる。


《ずいぶんとおかしなモノを持ってきたな》

「彼女は友人ですよ」

《貴様に友か! ずいぶんと面白い(ジョーク)だな》


すごいリリアナのこと小馬鹿にしてるな。なんなんだこの光は。


火の精(フェニックス)の使役者に存在せぬ者(異端者)とは、ずいぶんと愉快なメンバーだ》

「彼女は正式にハゼルトの保護下に入ります」

《では、懐かしきもの(寵子)と言えば良いか?》


さっきからなんなんだろうか。というか、まず誰よ。


「こちらはジン。風の最上位精霊で、私が幼い頃から傍にいる精霊です」

「では、こちらがフェニックスの使役者と分かったのは」

《アレとはもう何億年以上もの付き合いだ。分からないワケがないだろう》


精霊って、世界観によって強さがかなり変わるけど、この世界じゃ強いんだもんなぁ。確かだけど、最上位種族の神や悪魔の次に強かったよね。


《それで、ここに何用だ》

「【名の亡き神話】の本がほしいんですよ」

《飽きないのか貴様は》

「読むのは私ではないですよ」


少し待っていろとどこかへと飛んでいき、戻ってきたときには分厚い本を持っていた。受け取り表紙を見るけれど、そこには何も書かれていなくて、丁寧に保管されていたのは分かるものの、かなり古びている。


《それはかつて、姫の生きた時代をとある悪魔が書き、民に与えたものだ。姫を死なせぬようにな》


最上位種族、特に神や悪魔は生命にどれだけ信仰され、畏れられ、憶えられているかで生死が決まるらしい。どれだけ力を持とうが、人に忘れられた存在が生きていくことはできない。これは、あっちの世界でも同じようなもの。人からの信仰がなくなった神様は消えてしまう。


「その悪魔はなんでわざわざそうしたの?」

《畏れたのだ。姫の力が予期せぬ形で現世へと蘇り、力に蝕まれ星を壊すことを》


悪魔すらも畏れる神の力。それが、今私に加護として付いている。


《加護はときに呪いとなる。呪いはやがて、姫の民に毒牙を向ける》

「……私が殺されるとでも?」

《お前の悪いクセだ》


リリアナのクセと言っても、今の発言で何があるというのやら。


《ハゼルトがいかに優れていようが、個は多に勝てん。自分であれば如何様にもできると思っているのだろうが、そのままではいずれそう遠くない未来、お前は死ぬ》


唐突にリリアナが死ぬって言われても、実感が湧かない。だってリリアナが負けるところなんて想像がつかないのだ。全て簡単に解決してしまうリリアナが。


「自らの意思で我々に牙を向くと?」

《アレは異常だ。ある意味、お前と似ている》

「話が見えませんね」

《気をつけろと言っているのだ。お前が死ねば血が途絶える》


ハゼルトの血なら、ユラエスもいるし、先生たちもいる。なのに、何故リリアナが死んでしまったら絶えるなんて言うんだ?


《【幻音の悪魔】に気をつけろ。それと》

「ジンの苦言は長いんです。他の方がいるときに言う必要はないでしょう」


何か伝えようとしてたけれどリリアナが遮るけど大丈夫かな。重要そうだったけど。






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