3.
互いに軽く自己紹介をしたところで、ハゼルト侯爵と話が終わったのか、リリアナがこっちに顔を向けた。
「リリーちゃん、この子アイリス!」
「この距離でそんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ」
「あ、えっと」
「はじめまして。リリアナ・アデア・シティアルです。ご令嬢のことは知り合いから聞いております」
知り合いって、リリアナの知り合いに私のこと話す人なんているはずないけど。
「ハゼルト侯爵との話は終わったのか?」
「そこまで重要性でもないみたいなので、また後日話すことになりました」
「いい加減お父さんたちにもちゃんと通すよう言う?」
「それはもう言いましたよ。言っても聞かないのが伯父様です」
当たり前なんだけども、身内話はついていけない。
「……ご令嬢、よろしければ少し瞳を確認してもよろしいでしょうか」
瞳って、目を覗くってこと? そのくらいなら全然いいけれど。
「失礼します」
身長的にはリリアナの方が低いため、下から見上げられる形になる。
リリアナはジッと見てきて、しばらくすると何やらブツブツと言い始めた。
「リリアナ嬢、カトレア伯爵令嬢が困ってますよ」
「……あぁ、大変失礼いたしました。とても珍しい色をしていたものですから」
これまた変なことを言われた。確かにピンクブランドの色というのは珍しいのだろうけれど、それと瞳を確認するのにどんな関係があるのか分からない。
「質問なのですが、カトレア伯爵家は【水】に関わる家系でしょうか」
「そんなことはなかったはずですけど…」
魔法の適性属性も、カトレア家は【水】じゃなくて【風】。ゲームでもアイリスは【風】の魔法をよく使ってたし。まぁ、とある出来事のあとから【水】の魔法も使うようになったんですけどね。
「どうかしたの?」
「………いえ。私の勘違いかもしれませんので」
その勘違いってなんなんですかね。何に間違えられてるんですかね。怖いんですけども。
「魔法適性?」
「それもありますけど、ご令嬢は少し特殊なようです」
「魔法適性って、瞳を覗けば分かるようなものなんですか?」
「無理ですね。どれだけ魔法に精通していようと普通は不可能です」
普通は、と言うことは例外があるのね。その例外が今目の前にいるけども。
「神話の一説によれば、ハゼルト侯爵家はこの国ができるよりも前に神々から祝福を授かったとされています。それによってでしょう」
あぁそっか。この世界だと実際に神様とかがいるんだもんね。神様だけじゃなくて悪魔とか天使、なんなら一部の人にはかなり刺さる獣人とかも。どこにいるかは不明だから会うことはないだろうけどね。
「リリーちゃん、そこら辺には答えてくれないよね」
「規則です」
ハゼルトはゲームでも秘密にしていること多かったし、そういう一族なんだろうね。