20.
ユートさん…。リリアナの姿をしてたのは何故? というか、さっきまでのあの雰囲気とかはどうやって。完全にリリアナのものだったし。
「ユートはこういう騙す行為が得意なんだよ」
「三人は分かってたの?」
「リリーだったら殺しに来る」
「リリアナちゃんの魔力って独特だしね」
リリアナの殺意高すぎません? そんなイメージないんですけど。
「機嫌悪いとかなりだよ」
「ゼクトくんたちの前でしか見せない?」
「カッコ悪いとこ見せたくないんだろ」
肩肘常に張ってる感じだから、こっちとしては少しはそういう部分とかも見せてほしいんだけどね。
「それで、ユートはなんで来たの」
「我らが主からのお達し」
主って、メリアさんたちを造った秘匿魔術師さんからの? こんなタイミングで。
「内容はコレに書いてある」
「手紙なら別にユートくんじゃなくてもよかったんじゃないの?」
「騎士団に送ってくると他に見られるからでしょ」
メリアさんは手紙の内容を見てため息をついたかと思えば立ち上がった。
「ごめん、用事ができた」
「急ぎなんだ」
「私から言えるのはあれで終わりだしね。もう帰りな」
帰りな、と言われても、まだ疑問はあるんだよね。さすがに急ぎみたいだから引き留めはしないけど。
「君らはこれから少し奇妙なできごとに見舞われる」
「……メリア、何を」
「その過程できっとリアのことを知ってく」
「おい、やめろ」
「あの子を否定しないであげて」
ユートさんの静止を無視して、メリアさんは言葉を続けた。
ユートさんが静止した理由は分からないけれど、きっと何か、大切なことなんだとは思う。
「私はこれで」
メリアさんは言いたいことは言ったと言わんばかりにお店から出てしまい、残ったのは私たちと微妙な空気。
「やられたな、ユート」
「笑いごとじゃない。俺たちには秘匿義務があるんだぞ」
「メリアがそうしたってことはあいつの指示ってことだろ。信じてやれよ」
「もし独断だったら罰を受けるのはメリアだぞ」
なんか、妹を心配するお兄さんに見えてきた。
ハゼルトのことは基本的に機密。もしリリアナや先生にバレたら、殺されるまではいかなくとも、何かしらの罰は下っていたかもしれないし、ハゼルトを蹴落としたい人たちに聞かれていたら大変。
「……もういいよ。あいつらの勝手はいつものことだし」
「お前が一番自由にやってるしな」
「俺は仕事だ」
ユートさんの仕事…。メリアさんは騎士でリアンくんは情報屋だからな。想像がつかない。
「ユートの仕事はなんでも屋。ハゼルトや魔塔からの普通じゃできない仕事をやることが多いんだよ」
「……それって」
「汚れ仕事だよ。世界情勢に大きな影響を与える可能性のある危険分子を取り除くのが仕事」
じゃあ、もしその仕事に失敗して見つかったらユートさんは死刑? いくら本当は人間じゃないとしても、知らない人たちからすればちゃんと人だし……。
「暗い話は終わり。速く帰りな」
「ゼクトくん戻ったら稽古しよ」
「アストロにでも頼めよ」
ゼクトとオリヴィエさんは知っていたからかあっけからんとしている。失敗すれば死刑。死刑じゃなくても、重い罰を下される。それを分かってるからこそ、なんとも思っていないように振る舞っているのだろうか。




