195.
影が射し、上を見上げると黒いナニカがいた。液体のような個体のような、スライム状のナニカ。それは禍々しい魔力を帯びていて、リリアナの方に倒れ込んだと思えば小さくなっていき、やがてウサギの形になる。
「到着早っ」
「急いで下がれ! メリア結界!!」
「わーってるっての」
三人が下がって、結界が張られる。メリアさん一人でこの規模だとすると、かなりのものだよね。結界の中のはあの呪いとリリアナだけ。フレミア侯爵令嬢たちはしっかりと結界外にいる。
「普通は使うと罰を受けますが、後始末は魔塔で請け負うと言われていますから、少し派手にやりましょうか」
ウサギが巨大な黒鳥の姿へと変貌していく。形を変えられるってのは分かってたけど、体積とかの法則ガン無視かい。さっきので分かってはいたけどさ。
「どれだけ弱者が徒労を組もうが、圧倒的な力の前には意味がない。これがもし、私相手ではなければ結果は変わったでしょうね」
リリアナが魔法陣を展開していく。けど……。
「……あれ、魔法の出力じゃない、よね」
呪い相手だとしても、魔法を使うための魔力出力じゃない。魔法陣も、今まで見てきた魔法の中でも規模が大きいし、複雑。
「あれ、魔術だよ」
「使えるの!?」
「リリィだし……?」
なんでもかんでもそれで納得はしないからね? リリアナの才能は知ってるけど、魔術まで使えるなんて。先生たちも分かって使わせてるってことだよね。
「後始末は魔塔がやるって言ってたでしょ。あれ、何を使ってもいいから全力で殺せってことだよ」
だからって魔術使う!? リリアナなら魔法とあの呪いでなんとかなるでしょ。
「魔術師たちの模倣となると、どう頑張って簡略化、簡易化しても魔術になるからね。たぶんあれ雷と毒と解呪のコンボだよ」
「ハゼルトの呪いは大丈夫なんですか?」
「あれは絶対解呪できないから大丈夫」
絶対なんだ……。むしろあの呪いの方が解いた方がいいと思うんだけど。そんなことを言ってる間に完成したのか、光で視界を覆われ、そのすぐ後に轟音が響く。呪いは目に見えるほど傷ついていて、形を維持できていない。
「喰らい尽くしなさい」
ハゼルトの呪いが動き、呪いを食べていく。あのときと同じ……。先生がイフリートに呪いを食べさせたときと同じように、聞きたくもない気持ち悪い音と、呪いの悲鳴が聞こえてくる。
数分もすれば、悲鳴は聞こえなくなり、食べる音もなくなる。見てみれば、呪いがいた地面は抉れ、ハゼルトの呪いはウサギの姿に戻っていた。
「終わり……?」
「だね」
ゼクトたちが結界を解いて、リリアナが後ろにいるフレミア侯爵令嬢たちの方を振り向いた瞬間、何かがリリアナの肩を貫いた。




