19.
【魔塔】。ハゼルトでも中位になるほどのレベルの実力者たちが集う世界が認めた天才たちの属する場所。数千年もの間、その頂点に君臨し続ける存在がいるとかの噂もある。人間がそんなに長く生きられるワケもないのに、噂というのはすごいものだ。
「魔術師として認められた者は最上位種族から恩恵が与えられる」
「祝福とは違うんですか?」
「似たようなモノだけど、一番の違いは力の差。祝福は面白がって渡される場合が多いけど、恩恵は意味があって渡される。何より、その恩恵によって一部だけれどその最上位種族の力を行使できるんだよ」
どういう意図で渡されてるかで変わるってことか。まぁ、適当に渡そうで神様の力とかを犯罪者に渡されたりとかしたらたまったもんじゃないしね。
「そういう力には敵わないから、ハゼルトが好き勝手することはないということですね」
「上三人が別格だからな。今代のハゼルトと上三人でやれば、相討ちにはなるんじゃないか?」
上三人が別格だとしても相討ちには持っていけるというところはさすがハゼルトって感じだけれど、あくまで上三人とやった場合。全員とやればハゼルトが負ける。
「ハゼルトがいかに上位種族に愛されていようが、それ以上の力を持つ存在がいる。ハゼルトの独裁政治はあり得ない」
「でも、ハゼルトの独立は簡単じゃないの?」
「神族との契約ですよ」
不意に後ろから、聞こえてくるはずのない声が聞こえてきた。いつも浴びているはずの魔力が、とても冷たく肌に刺さる。
分かってはいた。ハゼルトは自分たちのルールを守る。だからハゼルトのルールに抵触することをしてはいけない。お父さんに学院に入る前に何度も聞かされてた。ハゼルトではなくとも、その血を引いているのだから、そういう気質を持っていてもおかしくはないと。
殺気じゃない。ただただ、いつもより少し重たくて冷たい魔力が放たれてるだけ。それなのに、動けない。
「メリアもゼクトもいるはずの場所にいないから探しましたよ?」
「リリーちゃん、これは…」
「別に、伯父様に報告はしませんよ。大事な部分は話していないようですから」
いつものような笑みを向けてくるリリアナに、恐怖を抱いた。
怒ってるどころじゃない。少し返答を間違えただけで、殺されそうで。それくらいの威圧感で。
「……どうしてここが分かったんだ」
「メリアたちは何か事を起こすことがないよう、監視魔法を付与されているんですよ」
ローズさんやリアンくんは魔道具。法が適用されない。だからこその監視魔法。言い方的に、付与したのはリリアナなのか。
「先ほどの質問に答えると、ハゼルトはこの国の建国神と契約を結び、この地における絶対的な力の行使を封じられているため、離反などが起きていません」
目の前にいるのは、リリアナのはずなのに、何故か違うと思ってしまうのは、リリアナの放つ魔力がいつもと違うからだろうか。
「ユート、これ以上イジメてやるな」
「………はぁ」
ゼクトがユートさんとやらに声をかけると、リリアナがため息をつく。
新しい人出てくるし、何故かリリアナはため息つくし、何がなんやらなのですが。
「……あぁ、怖がんなくていいよ。俺リアじゃないし」
「え、声…」
「あー、ごめん。今直すから」
パチンと音を鳴らすと、リリアナの姿から一変。薄い水色の髪を持つ青年になった。
「はじめまして……かな。十四が魔の格が一人、三の魔の格【不老たる傲慢】ユート。メリアたちの兄に当たる者だ」