16.
休日。騎士団の訓練所に来てみたはいいものの、そもそも私たち三人はローズさんとやらを知らないワケでして。知ってそうだったリリアナを連れてきたかったけど、当日アポなしは非常識だし、休日はハゼルトにいることが多いそうなのでやめておいた。
「そこで何してるの?」
「オリヴィエさん、その格好」
後ろから来ていたらしいオリヴィエさんは、肩まである髪の毛を高い位置で一つにまとめ上げていて、服装は訓練所にいる人たちと同じ騎士服。
そっか。ゲームでもあんまり触れられてないから忘れてたけど、オリヴィエさんって騎士団の人か。この前も言ってたけど、すっかり忘れてた。
「ローズ卿に会いたいんですけど」
「メリア? メリアなら木の上で本読んでるよ」
木の上で何故本を。いや、気持ち良さそうだけどさ。ここに来てまでやることなのかと聞かれれば絶対違うよね。
「……来るの速くね」
「ゼクトくんが遅いんでしょ」
サボり魔二人は来ましたと。あとはローズさんだけだけど、いるのかな。
「ローズ、お呼びだぞ」
「え、もういるの?」
「上」
近くにあった木の上を指され、近づいて見てみれば、漆黒の長い髪をオリヴィエさんのように高い位置に一つにまとめ上げ、赤黒い瞳を持っている騎士服の女性がいた。
「ローズ、降りてこい」
「………面倒くさ」
ため息をつき、退いてと言われるから退けばきれいな着地を見せてくれた。
普通に見たら、ゼクトと兄妹かと思えるくらいには顔立ちが似てる。血縁者なのかな。
「王国騎士団団員、メリアローズ。よろしく」
「雑すぎだろ」
「面倒だし」
さっきからずっと面倒面倒って言ってるし、殿下見ても何も言わないのを見るに、階級とか興味がないんだろうな。
「それで、私に何か?」
「その、知りたいことがあって、リアンくんがローズさんならって」
「あっそ」
スタスタと訓練所から出ていくローズさん。ゼクトとオリヴィエさんを見れば、ついてくぞと言われた。
「あの、どこに?」
「……知り合いの店」
知り合いのってことは、話してくれる…のか? ローズさん、あんまり話さない性格なのか何も言わないし、ゼクトとオリヴィエさんも何も話してくれないし。
「この先ってハルくんの?」
「今月はこっちいる」
また新しい方出てきたけどどちら様ですかね?
訓練所から歩いてだいたい十分ほどの距離にあるお店に入ると、店員さんが声をかけてくれた。
「あらローズちゃん。久しぶりだね」
「奥いい?」
「ローズ卿、サボりかい?」
「弟から任された仕事だよ」
店の奥には個室があって、盗聴防止のための音遮断魔法が組み込まれてる魔道具もある。お偉いさんとかが話すのにこういうのは使わないだろうって心理利用してこういう場所作ってるのかな。大事な話しとかって、もっと重厚感あるお店のイメージあるし。
「……それじゃ、改めて」
全員座ったところで、ローズさんが口を開いた。
「十四の魔の格が一人、十の魔の格【無血の怠惰】メリアローズ。とある【人形師】により生み出された仮初の生命だ」