15.
いろいろとツッコミたいけれど、まずはニーチェル公爵の買い物だよね。
「俺らはあんたに会えとしか言われてない」
「知ってる。君たちのことは見てたからね」
見てたってことは魔法……だよね。ストーカーとかが使いそうな魔法もあるとか怖。
「呪いについてはそうだねぇ。魔塔とハゼルトへの宣戦布告、としか言えないかな」
「敵対組織の仕業ってこと?」
「そうだね。魔塔は魔法の生み出される場所。例外もあるけれど基本的には魔塔だろう? 魔法の管理なども魔塔だ」
「だから呪いによる事件を起こしたのか」
わざわざ信頼を落とすためだとしても、リスクが高すぎる。自分たちが自由に魔法を、って考えなんだろうけど、そんなことしたら暴れまくる人たちが出てくる。そういうのを止めるための魔塔なのに。
「ここはまだ良い方だよ。国によっちゃ、十人死人が出てる」
「ここ以外の魔術師がいる国も対象か」
「他の国は魔術師たちが対応してるから、もう大丈夫だろうね」
基本的に、国と魔術師というのは友好的。国は自国から優秀な者を出したという名誉を得られ、魔術師は多少なりとも特別な顕現をもらえる。貴族たちも、魔術師とは仲良くなりたいとすり寄るのが基本だろう。けれど、ここは違う。魔術師はほとんどがハゼルト。そしてハゼルトは魔術師以前に国からかなりの特例措置を取られてる。妬む貴族は少なくない。
「魔術師を妬んでる人間も少なくないからね」
「魔術師の選定条件……だよな?」
「魔術師の機嫌を損ねれば死ぬ、なんて嫌だからね」
表向きは、魔法よりも高度な、他には到底真似できないようなもの、【魔術】を生み出すことが魔術師の条件。
「一国を転覆させることのできる力か…」
本来の条件は、単独で国を乗っ取ることのできるほどの力を有しているか否か。
魔術を生み出せるのは前提条件のようなもので、それに加えて圧倒的な力を誇示しなければ魔術師とは認められない。
この条件は、過去に魔術師を輩出した家門にのみ伝えられる。とは言え、口外するのは基本的に禁止されており、例外としてハゼルトなど一部の定期的に魔術師を輩出する家門のみが許されている。私が知っているのは、ゲームのユラエスルートでポツリとユラエスが溢していたためだ。
「僕から言えるのはこれくらいかなぁ」
「呪術を行使した人物は分からないんですか?」
「候補はあるけど、あくまで推測だからねぇ」
推測では動けないし、今話しても違ったらかなり迷惑をかけてしまう。情報を売る買うという立場だからこそ、そういう精査をしてできるだけ正しい情報を客に渡して信頼を得てるのだろう。ハゼルトやニーチェル公爵が使うワケだ。
「あとはそうだね。僕の姉に聞くといいよ」
「【白藤の愛】か?」
「また別の、君たちが知ってる人物だよ」
ユラエスたちが知ってる人物? 学院にいるってことなのかな。
「いるだろ。騎士団でまともに来ないサボり魔が」
「それ俺にも刺さるからやめてくれ」
ゼクトが騎士団入ってたという驚きが強いんだけど。あんた従者なのに騎士団入ってるの? よく許可されたね。
「お兄ちゃんたちが入ってるのは知ってたけど、ゼクトくん入ってたんだ」
「シエルに入れられたんだよ」
「サボり魔って、ローズ卿のことか?」
ローズ卿? ローズ家なんてあったっけ。家名じゃないなら名前なのかな。でも、だいたい何々卿って家名だよね。
「ローズは平民だぞ」
「貴族ではないんですか?」
「剣の腕はシエルお墨付きだが性格に難あり。あんまり顔も出さないから月一で顔を出す日があるが」
その様子じゃ、来てないのね。
「サボり魔三人衆」
「俺は連絡入れてる」
「オリヴィエが一番ダメだろ」
あの人、自分の父親が団長なのにサボるとかメンタル強すぎるでしょ。侯爵もよく怒らないな。というか、令嬢が騎士団に入るのはいいのか?
「今度呼び出されてたよな?」
「呼ばれたな」
じゃあ、そのときに会いに行けば聞けるのか。
「………え、来るの?」
「え、ダメなの?」
普通はまぁ、ダメだよね。私たち別に騎士ってワケでもない勝手に首を突っ込んでる一般人扱いだし。
「……面倒起こすなよ」
アストロさん、なんだかんだティアナに甘いですよね。