121.
目の前には幸せですという顔で俺の手を引くロア。聖女は大丈夫なのだろうが、バレたら面倒だな。
「あの子、なんでこっちに来てるのかしら」
「知り合いがいるとかじゃない?」
さほど興味ないため適当の返事を返す。ロアが話を振って、俺が答える。それが昔からの俺たちのコミュニケーション。俺が話すのを面倒くさがったり、自分から話すのが苦手なため、ロアが話を振ってくれている。
「リリアナちゃんとは最近どうなの?」
「再従妹殿? 普通だけど」
なんでロアと再従妹殿が知り合いなのかは謎だが、二人とものらりくらりと好き勝手しているため、知らぬ間に出会ったんだろう。ロアに関しては彷徨くなという話だけれど、息抜きは必要だしな。
「りんご飴食べたい」
「はいはい」
お望み通り買ってやれば嬉しそうに頬張るロア。言えば作らせると言ってるのにそれでは意味がないとか言うからよく分からない。誰が作ろうと味なんて一緒なのに。
「雰囲気が大事なの!」
「こんな人混みに雰囲気なんてあるの?」
「ある!」
よく分からない。クロフィムたちなら分かったのだろうか。俺がこういうのには向かないと分かっているのに毎回誘うロアもロアだ。俺に恋人のようなことを期待してるワケでもないだろうに。
「フォールトはいつも頑張りすぎ」
「俺がやらないとだろ。クロフィムに王位を渡すにしても、不安すぎる」
継がせるつもりはない。クロフィムにはできる限り自由に生きてほしい。地位に縛られてほしくない。だから、手っ取り早いのはどっかの令嬢とでもくっついて婿にしてもらうことなんだが、あいつそういう願望がないからな。
「もう無茶しちゃダメだよ」
「……不必要な無茶はしないよ」
昔、何度か無茶をしてロアを泣かせた。その度に友人からもロアに心配をさせてばかりなのはやめろと言われた。自分が不器用なのは分かっている。だから自分なりにやってはいるが、不器用なのは変わらなく、結局ロアに心配させてしまっている。
「約束して」
「……分かったよ」
ロアは安心したように微笑み、周囲に花を咲かせる。大量のオオデマリが風に吹かれて飛んでいく。花言葉は「約束を守って」「華やかな恋」と、ロアらしい。さすがに目立つため、少し街から離れた丘に登る。滅多に人が来ないけれど街全体を見渡せてとても気分がいい。
「次はなんの花にしよっか」
「……お好きなのをどうぞ。お姫さま」
ロアが色とりどりの花を咲かせ、風が花を街まで送っていく。まるで、それが当たり前のことであるように。
再従妹殿は花姫になってから毎年俺に聞いてくる。何故ロアを花姫にしないのかと。母も父も身分や血統に文句をつける人ではない。けれど、令嬢ではないロアを花姫にするのは、国の貴族が面倒だ。だから再従妹殿にはもうしばらく花姫でいてもらおう。ロアをちゃんと迎える準備ができるまで。