120.
リリアナ様の魔法で飛ばされてしまったけれど、本当に何故私が王太子殿下とペアなんですかね? 案内をしてもらえるような雰囲気でもないですし、嫌われてますし。
「これならゼクトとペアの方がマシだった……」
ナイジェル様もそうですが、私は嫌われているようで、ゼクトさんからの視線は特に痛いです。何かした記憶もないので、リリアナ様の仰っていた通り、魔法の相性の問題だとは思うんですが…。
「別行動でいい?」
「え、でも……護衛の問題でペアになってるんじゃ」
「いーのいーの。君ならなんとかなるでしょ。それに」
何か言おうとした王太子殿下の背後から何かがぶつかってきて、王太子殿下が前のめりに倒れ込む。王太子殿下にぶつかったのは私と同じか少し上くらいの若草色の髪を持つ可愛い人で、王太子殿下はどこか呆れている。
「遅い~!」
「るっさいなぁ。人目につく行動は控えろって言ったろ。何してるのさ」
「……えっと、どちら様でしょうか?」
親しげだけれど、貴族の方じゃない。街の方なのかな。それにしては、ずいぶんと仲がいいというか、距離が近い……。
「フォールトの恋人です!」
恋人さんなら距離が近いことは納得ですけど、婚約者ではないんですよね。身分を越えた恋ってやつですかね?
「違う。本当に違うから……。変な方向に思考を飛ばすのやめて」
「ちがくないじゃん!」
「やめろ……。本当にやめてくれ…。頭が痛くなる」
困ってそうだけれど、これは照れ隠しというやつなんでしょうか。
「ただの知り合い。ロアって言って、昔からよく会ってただけ。本当に、そういう仲じゃないから」
「私とフォールトは………」
ロアさんが何か言おうとすると、王太子殿下が言うなと口を塞いで、ロアさんは怒る様子もなく、本当に仲がいいんだなと分かります。
「もしかして、このあとお二人で巡る予定でしたか?」
「年に一回だけ会える日だからね」
年に一度だけ……。王太子殿下もお忙しいし、そうなってしまうか。だとしたら、私はお邪魔ですね。
「私は一人で大丈夫ですよ」
「いいの?」
「はい。お二人の邪魔はできません。会えるのが年に一度だけなら、なおさらです」
「……何か困ったことがあったらたぶん再従妹殿の人形が動くだろうから、よろしく」
早く早くとロアさんに急かされて王太子殿下は行ってしまうけれど、ここからどうしよう。ここがどういう作りなのかもまったく知らないのに一人になってしまった……。
「……なんでお前ボッチなの?」
「ひゃっ!」
後ろから突然声をかけられ、振り向くとそこには護衛としてきていた方がいる。確か……シャルフさん。
「王太子殿下はご友人と回るそうなので」
「で、あんたは放置? せめてどっかに置いてけよ。面倒くせぇ…」
シャルフさんは魔道具で誰かと話し始め、「なんで俺が」とか「お前らが来い」とか言っている。たぶん、私を他の方に任せようとしたけれどシャルフさんがしろと言われてるのだろう。迷惑をかけてしまって申し訳ないですが、一人だとどうにもできませんし……。
「……はぁ。で、どこ行きたいんだよ」
「えっと、私のことは気にしなくていいのでやることを」
「んなことしたらリアに殺されるに決まってんだろ」
そんな大げさな……。リリアナ様に限ってそんなこと……。ハゼルト侯爵家は危険と神殿で何度も聞かされたけれど、さすがにないですよね。
「ほら、行くぞ」
「え、ちょっと!」
手を引かれて人混みに入っていく。強引だけれど、手はしっかりと握ってくれていて、はぐれないようにしたくれている。怖そうだけれど、不器用なだけで優しい人なんですね。