12.
この前行方不明になった伯爵家の人って、数日前に行方不明になったって言う?
「……リリアナ嬢、何故伯爵家の人間だと分かるんだ」
身体はぐちゃぐちゃ。身元が分かるようなモノもない。
「人によって魔力は違いますから」
魔力って言っても、身内とかだと差異はほぼないんじゃないの?
「私は目がイイのですよ。祝福の一種なのだと知人は言ってました」
「珍しい祝福だな」
「伯父様たちも目がイイですよ?」
「別に祝福があるから良いってもんでもないだろ」
先ほどからずっと言っている【祝福】。そのままの意味だけれど、最上位種族と呼ばれる神様や悪魔に愛されている者が受けられる恩恵。ハゼルトは遥か昔、それこそこの国ができる前に最上位種族との交流があり、永きに渡り祝福を受けていると言われている。
「今はそこじゃないだろ。どうするんだ」
「魔塔で議題に上げるしかないだろ。似たようなのが他の国でも起こってる」
そうなるとこれ、単なる事件じゃなくて世界規模の事件ってことになるのかな。魔塔が出てくる時点でかなりヤバそうな雰囲気出てきてるけど。
「……路地裏で何話してるんだお前らは」
「お父さん!?」
後ろから声をかけられて、振り向けばそこにはティアナに似た男性。
カフニオ・フォン・ニーチェル公爵。ティアナたちの父親で、外交を取り締まっている人。先生とも仲が良く、確か同い年だったかな。
「騒がしいから来てみれば、人の娘たちを勝手に事件に巻き込むんじゃねぇよ」
事件に巻き込んだというか、巻き込まれに行ったというか……。リリアナは乗り気だった。
「……呪殺とは珍しいな」
「この光景にまずツッコミ入れてよ…」
「慣れろ」
慣れを強要しないでください。そんなに順応能力ないですって。
「それで、今は何してる途中だ」
「魔塔に持ってく部位集めです」
「なら半分は渡してくれ。こちらでも調べる」
全然物怖じしてないし、慣れてるのかなこういうの。公爵という立場で外交官だからあまり見たことないと思ってたけど。
「我が家は代々ハゼルトと国の繋ぎ役をしているから、こういうのは慣れているんだよカトレア伯爵令嬢」
心読まれた? 声には出してないのになんで。
「俺は職業柄、そういうのに敏くてね。気を悪くしたのならすまない」
ニーチェル公爵に隠しごとは無理だな。でも、心を読んだというよりも表情などを見ての推測って感じなら、転生者なのはバレてないはず。
「ニーチェル公爵、こちらです」
小さめの瓶に呪いの媒体となった人の身体の一部が詰められており、ニーチェル公爵はそれを受け取る。
「……なるほどな」
「え、なんか分かったの?」
「少しはな。さて、リリアナ嬢」
公爵はリリアナの方を見て微笑み、
「十四の酒で今日のススメは何かな?」
そう聞いた。
なんでお酒なのかも不思議だし、何故それをリリアナに聞くのかが謎だ。
「……個人的には、二つ目と十四つ目のお酒ですかね」
リリアナもリリアナでなんで答えられるの。何かの暗号? でも、ニーチェル公爵とリリアナの接点はゲームで特に描かれてなかった。それもアイリスがリリアナと敵対してたから?
「【白藤の愛】と【貪欲の知恵】か」
「そんなお酒あるの?」
「聞いたことないですね」
まず、これ本当にお酒の名前か?
何かのやり取りに思えるけど、分からないな。
「後者ならこの前見たし、買いに行かせるか」
自分では行かないんですね…。それもそっか。仕事忙しいだろうし…。