115.
ティアナに仕返しをしたら顔を真っ赤にして怒ってきた。正直、飼い犬がまだ遊ぶと吠えているようにしか思えないが、そこが可愛いから仕方がない。
「聞いてる!?」
「聞いてる」
俺としてはそんなことよりもアストロさんが怖いんだが。あの人、シスコンではないんだろうがティアナに何かすると厳しいというか、当たりが強いというか、少し過保護だ。
「あれ、ティアナが食べたいって言ってたやつじゃないか?」
「あ、ホントだ!」
話を変えるとすぐにそっちに思考が行ってしまい、さっきまでのことなど気にしてないかのように笑顔を見せる。そのコロコロと変わる表情は、リリアナ嬢とどこか対比的だ。
「エルくん食べる?」
「もらう」
こんなことをしているが、殿下……フロイドとリリアナ嬢は大丈夫だろうか。サジュエルさんとアイリス嬢は勝手にいつの間にか婚約してそうだからいいけれど、あの二人はそうもいかない。五つのときに出会って婚約してからというものの、一歩も進展していない。
あれが未来の皇帝と皇后で大丈夫かと心配なため、フロイドには本当に頑張ってほしいものだ。リリアナ嬢に関しては、まず恋愛についてを学んできてほしい。そのレベルで彼女は疎い。
「少しは進展してほしいが」
「リリーちゃん、恋愛に関してはお子ちゃまだもんね」
「恋愛小説でも勧めたらどうだ」
「貸したけど、理論的に見すぎて怖かった」
既に試したあとだったか。フロイドにもいつだか流行っていた恋愛小説を読ませたが、共通の話題にはならなかったみたいだな。
「リリーちゃんって何が好きなんだろ」
「魔法と植物」
「それ以外で」
リリアナ嬢は魔法のイメージが強いからな。それ以外だと植物が好きというのは聞いたことがあるけれど、それ以外は分からない。読書が好きだとしても、実験や魔法に関してのモノを読むだろうし。
「……リリーちゃんって、ゼクトくん好きなのかな」
「なんでそうなる」
いや、言いたいことは分かる。分かるが、急にはやめてくれ。ゼクトさんはリリアナ嬢のことをずっと世話していたみたいだし、主人と従者の距離感ではない。ないんだが、あれは好きとかではないだろう。
「兄を慕う妹のようなものだと思うぞ」
「ゼクトくんは確実にリリーちゃんのこと好きだよね」
「あれで気づかないのはリリアナ嬢の才能だと思う」
何故分からないのかと思うほどにゼクトさんは分かりやすい。というか、分かりやすく行動している。リリアナ嬢が気づかないからなんだろう。
「進展するといいねぇ」
リリアナ嬢たちも心配だが、俺たちが気にしたところで本人たちが頑張るしかない。せっかくの花祭りだ。楽しもう。