114.
リリーちゃんの魔法でペアで飛ばされたけど、たぶんだけど、頼んだのはアストロお兄ちゃんだよなぁ。
お兄ちゃんたち二人揃って婚約者もいなければずっと春もなかった。そんなときに、まさかの結婚するかどうかすら怪しかったサジュエルお兄ちゃんにまさかの春! しかも相手はアイリス。これは応援しないワケにはいかないでしょ。
サジュエルお兄ちゃんは家でアイリスのことを話すと分かりやすく反応するからすぐに好きなんだろうなって分かった。問題はアイリスがどうかだったんだけどね。接点少なすぎたし。でも、クラリッサさんがアイリスにいつの間にか聞いたようで、脈あり。これはもうね、家族全員でくっつけるしかないよね。
「毎度すごいことを当然のように……」
「さすがリリーちゃんだよねぇ」
「頼んだのはティアナだろ」
エルくんは二人のときは結構緩いというか、素を出してくれる。昔は殿下の前でも出てたんだけど、リリーちゃんと会った辺りからは少なくなった。殿下の側近だし、やっぱりそういう礼節は大切なのだろう。私は面倒だしすぐにボロ出るだろうからやらないけど。
「今回はお兄ちゃんだと思うよ」
「アストロさんか……。あの人、サジュエルさんが婚約者いないのを理由に婚約者選んでないが、大丈夫か?」
それはそうだけど、お父さんは無理強いしないだろうからなぁ。何せ、お父さんたちの代は恋愛婚がほとんどの上に発端がお父さんとお母さんだ。
お母さんは伯爵家の令嬢で、ニーチェル公爵家と昔から交流があったらしい。それで会ったときに二人とも恋に落ちてそのまま~、という相思相愛劇だったらよかったのだけれど、どうやら身分がどうこうで問題になり、婚約できていなかったらしい。物分かりのいいお父さんだからそれで諦めるだろうと思っていたお祖父ちゃんたちはお父さんのそのあとの行動にびっくり。まさかまさかの、お母さんと結婚できないなら籍から出るとか言い始めたらしい。
お父さんは兄弟いないし、お祖母ちゃんは身体がそんなに強くなくて次の子は産めるか分からないしでお父さんの意見が通され、それからお父さんたちの代では恋愛婚が相次いだんだとか。
「本当に除籍されてたらどうするんだか」
「その場合はお母さんが駆け落ちするつもりだったって言ってたよ」
結構本気で駆け落ちして隣国に行くのを検討していたらしい。それだけ本気だったんだろうし、今のお父さんたちを見れば相思相愛なのは一目瞭然なんだよね。
「私たちもやる?」
「認められて婚約してるのにやってどうする」
「冗談だよ~」
せっかくのお祭りだし楽しもうよ。最近のエルくんは息抜き足りてないみたいだし。
「ティアナはしすぎ」
「人のペースはそれぞれだよ」
エルくんはため息をつきながら、いつも私に付き合ってくれる。昔からそう。私があれやりたいこれやりたいってわがまま言って、普通なら止められるだろうこともエルくんは付き合ってくれて、できる限りやらせてくれて。
「大好きだよ」
「……お前はなんでそう不意打ちで」
いつもの仕返しです。たまにはいじりたいじゃん。
「……ティアナ」
「な………ひぇ!?」
なんだろうなとエルくんの方を見れば不意打ちで額にキスされた。エルくんはお返しだと言わんばかりに意地悪な笑顔を見せるけれど、私は顔が熱いし、されたことを処理するのに必死で、
「な……なっ」
「顔真っ赤だな」
「~~~!!!」
不意打ちはダメでしょ、と言う私の声が響いたのは、仕方がないと思う。