11.
呼ばれてたって、どういうこと。
「リリー」
「分かってますよ」
リリアナは私たちを呪いから隠すような位置に立つ。
「我々の領土を侵した罪、贖ってもらいますよ」
そう言い、現れたのは十の魔法陣。一つの魔法じゃない。十個全部違う魔法のもの。
一つの魔法を使うのに、普通であれば五秒必要。基本的に、使う魔法に必要な魔力を込め、それを魔法陣にし、魔法を使うという三つの工程が必要。それを二つ目の工程までだとしても、たったの一秒で十個もやるというのは、天才の一言で片付けていいものじゃない。
「呪いにどれだけ魔法耐性があるのか、興味があったのでちょうどいいです」
そう言って、魔法を発動するリリアナ。
呪いに当たったのかどうかも土煙で見えないし、音がすごくて耳が。
「……あらま」
土煙が晴れたかと思えば、リリアナの頬に一つの傷ができた。呪いの攻撃。素でこの速度? 呪いは贄にされた人の気持ちと使われた負の感情の多さによって力が変わるけれど、これ、かなり強いんじゃ。
「威力、速度はそこそこ…。よくもまぁ、こんな忌みモノを……」
これをそこそこって言えるのはどこから持ってきた知識なのか知りたいけど、それどころじゃない。
「手伝うか?」
「いえ、もう大丈夫です。あの子が来ました」
突然、辺りが暗くなった。路地裏だったから元々暗かったけれど、まるで夜になったかのようで、上から何かの声が聞こえた。
「喰っていいぞ、イフリート」
この世界には、【守護獣】という、一人に一体、その人を守る守護霊のようなものが存在する。それは主に動物。けれど稀に、魔力が多い者は聖獣や幻獣などと呼ばれるものが守護獣となることがある。
先生の守護獣はイフリート。炎を操る精霊、もしくは魔神とされている存在であり、人の姿をしているとされることもある。
最初に見えたのは、空から伸びてくる巨大な手。その手は呪いを掴み取り、
「ひっ!」
次に見えたのは、口のようなものが呪いを食べる様子だった。
液体のはずなのに、ぐちゃぐちゃと個体を噛む音がして、一回噛む毎に、呪いの悲鳴が聞こえてきて、思わず目を閉じた。
「………やっぱ俺、あいつ嫌いだわ」
「イフリート、全部喰うなよ。魔塔に持ってくんだから」
しばらくして、音が聞こえなくなり目を開くと、そこには呪いの身体を構築していたであろう贄にされた人の身体の一部と血が残っているだけだった。
「…これ、持ってく部分ありますか?」
「ほぼないな」
「じゃあもらっても?」
「あー………いいぞ」
良くない良くない! 何許可してるんですか!?
「お前は何を了承してるんだ! リリアナ嬢も持ち帰ろうとしないでくれ!」
「……………伯父様、少し面倒です」
「面倒はいつもだろ」
「これ、この前行方不明になった伯爵家の人です」