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正直なところ、ゼロさんはリリアナなんじゃないかなと少し思ってた。ハゼルトに保護されてるし、メリアさんたちと親しげだし、魔塔のことも多からずやっている。それに、リリアナが死んだら魔塔の人間全員が死ぬと言っていたから、もしかしたらって。
「勝手に出てくるなよ」
「いつまで経っても来ないからこっちから来てやったんだ。感謝しろ」
「………え、俺?」
「貴様以外に誰がいるんだ」
まったく覚えていない様子の第一魔術師とその様子にさらにイラつくゼロさん。いったい何したのこの人は。
「リーダーが約束すっぽかしてこっちに来てたんでしょ。今日はリーダーが来るからようやく外に出て遊べるって言ってたし」
「こいつにしては待ってた方だな」
悠長に話してますけどゼロさんガチギレしてるから止めてくださいよ。あとリリアナも優雅にお茶飲まないで!
「……リリアナ嬢、彼女は」
「魔塔で保護されている方で、魔術師候補の一人です。今代の神子様候補でもあり、メリアたちの造り主です」
ゼロさんが神子候補? じゃあ、ニーチェル公爵があのとき敬語だった理由って、神子候補だからってこと?
「はじめてましてか。自分はゼロ。魔術師候補で現在は【人形師】として魔塔に属している。自分の子どもらが世話になってるな」
「【人形師】って、人形を動かすだけだろ? こいつが人形にも魔道具にも見えないが」
「かつては【操者】と呼ばれていた。争いの中、敵の死体を操り爆発魔法をかけ、敵地内部へと侵入させ敵の中枢を丸ごと崩すこともできた。今では廃れた考えだがな」
かなりえぐいことを考えるな。どこぞの忍者マンガもそんな戦法あったけど、よく思いつくよね。戦争だと考え方も変わるのかもしれないけど、倫理的にどうなんだ。
「戦争には倫理観や感情論を持ってくる人が死ぬんですよ。どれほどの為政者だろうと善人だろうと、敵からすれば関係ありませんから」
「生きるか死ぬか。戦争ってそれだけ考えればいいから楽だよねぇ」
「魔術師が出るほどの戦争があったのは百年以上前だからメルトさんって戦争したことないよね?」
「紛争は結構やってるから魔法の試し撃ちにちょうどいいんだよね」
それ紛争止めると同時にバカみたいに死者出てるんじゃ……。これで罪に問われないのおかしいでしょ。この世界、いろいろと法律ガバガバなんだよね。
「俺らはねぇが、ゼロはあるぞ」
「最近は戦争なんてどこもやってないだろう」
「カブェリオの悲劇。あれをやったのがこいつ」
カブェリオ。この国からさほど遠くない、どの国にも属さない大草原だった場所で、十数年前に国同士で戦争するのに戦場となった土地。ある日、両国の軍が消滅し、土地は荒れ果て、二度と生命溢れる草原となることなく、今では誰も近寄らない荒野となっている。
それをゼロさんが? 私たちと同い年ってことは、そのときはまだ四歳とかのはずなんじゃ。