10.
この世界の誰もが体内に持つ【魔力】を扱い行使する【魔法】。その中でも他者よりも魔力を多く所有する者たちが自分のためだけに生み出し行使する【魔術】。
神官や聖女などの神殿に仕え、【聖力】を扱い行使する【聖術】。
人から出る【負の感情】と【贄】を媒介とし行使する【呪術】。その呪術から生み出される存在が【呪い】。
もっとあるのだろうけれど、私が知っているのはこの四つ。そして、その中でも【呪術】はどこの国でも行使を禁じられている。
「私ならば媒体となる贄が必要ありません」
「……だとしても、そこまでのリスクをメリットは?」
「今のうちに不穏分子は取り除くに越したことはありませんよ」
「待て待て待て、それを止められないとでも思ってるのか?」
国の禁止事項を目の前で言われたらそりゃあ驚くよね。私たちも驚いて何も言えないし。
「そもそも、贄が必要ないってのはどういうことだ」
「お前に話す必要がどこにある?」
「お前の勝手はいつもだが子どもを巻き込むな」
「姪はこういうときはハゼルトとして連れてきてる。問題はない」
「そういう問題じゃない!」
リリアナをハゼルトとして連れてきていても子どもなのは変わらないし、ハゼルトだからと言って法を犯していいワケでもない。
「姪、準備しろ」
「シエル!!」
リリアナは少し困ったように見ているけれど、やるつもり。私たちは止めようにも、どうすればいいのか分からないし。
「それで彼女に後遺症でも出たらどうするつもりだ!」
「ハゼルトは大抵のことに耐性がある。それに、姪は歴代の中で最も加護が強い。何かあれば責任は俺持ちなんだからいいだろ」
……あぁ、そうか。そうだった。
ゲームでも、先生は常に責任を他者に持たすことはなかった。教師としても、侯爵としても。
リリアナが断罪され、国外追放となったときも、リリアナを庇うような姿勢を見せていた。リリアナのその行為はアイリスや攻略対象たちの行動のせいであり、責任を取れと言うのなら、彼らに注意し、止めるべきであった自分ではないのかと。
それでも先生が最後には残っていたのはハゼルトの血が消えるのを国が恐れたから。だから先生は、言い方が悪いけれど切り捨てられることはない。そんな自分の立場を理解しているから、自分が全部の責任を持って、できる限りリリアナを、大切な身内を守る。
「責任を取るどうこうの問題じゃなく、彼女の」
「……伯父様」
「…手間が省けたな」
リリアナと先生、そしてゼクトは路地裏の奥を見る。そこには黒い、何かがいた。
ドロドロとした液体で、蛇のような形をしたそれはこちらを見て、まるで人のようにニタァと笑っている。
「何あれ!?」
「あれが【呪い】ですよ」
「本来、目的が達成されれば消えるはずだが」
じゃあなんで消えてないのって話だけどたぶん、
「どうやら、私たちをお呼びだったみたいですね」