1話
……シュイィィイイイイ ――
深夜2時。
浴室から機械音が響き渡る。
ガスマスクを付けた全裸の少女が、電動ノコギリで死体をバラバラに小分けにしている。
その死体はさっきまで一緒に寝ていた男だ。
心を殺し、無心に…タダ淡々と…少女は作業をこなす…
あたりには大量の血が飛び散っており、まるでスプラッター映画のような凄惨な現場と化していた。
死体をある程度小分けにした後、軽い部位から浴槽に入れ、最後に胴体を重たそうに持ち上げ、浴槽内に落とし”ベチャ”と生々しい音が鳴る。
しんどそうに体勢を整えた後、死体に向かって冷静に魔術を唱え始めた。
右腕には魔術師を監視する”生体リング”を嵌めている。
ちなみにこの少女は魔術師の資格を持っていない。
浴槽の底には簡易魔法陣が描かれた布が敷かれている。
唱え始めてから数分経つと死体は徐々にドロドロに溶解し、最終的には水と同じくらいサラサラな液体へと変化していった。
このイカれた作業を手慣れているのか、少女は長いゴム手袋をゆっくり着けて、浴槽の栓を外し、男の細胞すべてを排水溝に流した。
《コレで何人目だろうか…》
少女の心は一瞬ゆれ動くも無心を貫くようグッと堪える。
その後、浴室内に飛び散っている男の血とその返り血を浴びた自分自身をガスマスクごと40℃ほどの温かいシャワーで洗い流す。
浴槽内の液体が流れ切ろうとした時 ”ブくッ...ぶクっ” と不気味な音が聞こえる。
排水溝が詰まっている音だ。
少女は面倒くさそうに再び長いゴム手を履き、シャワーを当てながら排水溝の髪の毛づまりを取り、すべてを流し切った。
だが作業はまだ終わっていない。
浴室内には溶かした遺体から放たれた強烈な腐敗臭がまだ残っている。
だからといって換気扇を回すワケにはいかない。
そのため少女はガスマスクを着けている。
もし、このマンション周辺に異臭が漂い、気付かれでもしたら"この計画"は終わってしまう。
ガスマスクの呼吸音が静かに響き渡る。
―― スコォ……フゥゥ……スコォ……フゥゥ…… ――
少女は、くもった鏡に簡易魔法陣を描き、先程とは異なる魔術を唱え、腐敗臭を完全に除去し元の無臭の浴室に戻した。
――これでひと通りの作業は終わり…
浴室から出た少女はガスマスクを取り外す。
その正体は幼い顔のサキュバスであり、
下腹部には刻まれている淫紋が薄く発光している。
全身をバスタオルで拭きながら、少女は不安そうに下腹部を擦る。
高校の制服に着替えた後、気怠そうにPHSを手に取り、ある男に連絡をする。
「お疲れ様です。終わりました」
「お疲れぇ。痕跡は残してないよね?」
「はい、いつも通り。大丈夫です」
「わかった。毎回済まないねぇ」
先ほどの作業が終わったあと、必ず報告を怠らず行っている。
コレが少女の仕事の日課になっている。
男は心配そうに話しかける。
「それと体調はどう?何か変化ない?特にお腹の刺青の部分とか?」
「…少し変化ある…かな」
「大丈夫?」
「あ、はい。痛みとかは...無いです…」
「ああ、それなら良かったぁ。何か変わったことがあったら、いつでも連絡してね」
「あっ、はい」
「じゃ、朝9時までに部屋出るようにしてね。また相手決まったらPメール(今でいうSMSの前身)送るからぁ。ヨロシクぅ」
通話は終了し、PHSをソファーの上に投げ捨てて、少女は倒れるようにベッドに横になる。
先ほどの重作業でかなり疲労している。
《少しだけ仮眠とって、部屋出たらファミレス探そう》
心の中でそう思い、彼女はそのまま眠りにつく...…