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【コミカライズ】後宮も9度目なので、復讐や寵愛は望みません。  作者: 砂礫零
11-1. 凶 弾

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11-7. 泰山府⑤

『 在天地間離共生

  若往黄泉得絶期 』


―― 死して連理比翼となるよりは、天地の間、つまりは現世にあって、離れていても共に生きていられるほうが良いでしょう。だがもし黄泉(よみ)の国 (泰山府) へ行ってしまえば、その時間さえも絶えてしまいます ――


 雪麗は筆を置いた。

 なんと身勝手な望みだろう、と改めて己に呆れている。

 回帰(ループ)体質に浩仁を付き合わせるため、理想もほかの都合も全無視(スルー)して、生きていてほしいと願うだけ。


 先に、民のために云々と論じたのは、この身勝手な願いをカモフラージュしたにすぎなかったのだ。


(…… わたしも、春霞とそう変わりませんね)


 自然と、苦笑が漏れてしまう。


―― 雪麗がなした書は、雪麗が理想としている姿をしている。

 静謐でなにごとにもゆるがぬ力強さを持って背筋を正しく伸ばし、常に自分自身でいたい、と……


 だがよく見れば、その下からふわっっとしたものが、にじみ出ているようでもあった。


 雪麗は、それが決して、嫌いではない。


「―― できました」


【わぁ! 雪麗たん、アツぅい!】


「あのそれは、恥ずかしいからやめてください!」


 泰山府君に目を丸くされ、改めて顔面全体が熱くなってしまった雪麗。

 ようやっと受理されたのはいいが、インスタントな書家モードから現実に引き戻されてみれば、目の前に並んでいるのは雪麗自身が悶絶しそうな言葉である。なに連理比翼とか使っちゃってんの。


(ああああああああ…… わたしったら……!)


【いやぁ、()え書だっぺなぁ!】


 美雀がニマニマしながら絡んでくるのもやりきれない。本心でほめてくれているのだろう、とはわかっているのだが。


【本人が見だら、嬉しすぎて即死するがもなぁ?】


【あっそれいいアイデアだぉ美雀たん! 見せてみようかなぁ!?】


「…… やめてくださいったら!」


【にっしししし…… 雪麗さん、かわいいっぺなぁ!】


【安心してぉ、雪麗たん! 冗談だぉ! チミも気になるんでしょぉ、浩仁?】


「い…… いえ…… そんなことは!」


 変に気が合ったらしい美雀と泰山府君の横で、浩仁は目に涙をためながら主張した。


「推しもとい、苳貴妃が嫌がることなど、私は望んだりしません……!」


【んじゃあ、こうしよぉ。泰山府(ここ)に居てくれるなら、あとで、こっそり見せてあげるぉ?】


「…………」


(そこで迷わないでください!)


 雪麗は浩仁の袖を強くひいた。

 ふたりのまわりにあった結界は、いつの間にかなくなっている。


「行きましょう、浩仁さま!」


「…… そうですね、苳貴妃」


【じゃ、あだす、案内するっぺ! 先に蕣于(しゅんう)に皇太弟さん送ってから、央都の宮城だっぺな!】


 美雀が元気よく浩仁と雪麗の前に飛んできたとき、泰山府君が慌てたように立ち上がった。


【あっ、雪麗たん、待ってぉ!】 


 そのまま雪麗の横まで飛んできたかと思ったら、有無を言わさず、ぎゅむっと抱きしめられた。


「え!? どうしたのでしょうか!?」


 近くで見ると、いかにも(ボンボン)らしいおっとりと優しい顔立ちをしている ―― と、驚きのあまり思考が空転して観察だけしっかり、という状態の雪麗。

 そのおっとりした顔が、すばやく額に近づいてきて、なにか柔らかく冷たいものが額に当たった…… 


「って、えええええ!?」


「この下郎許さん!」


 浩仁の拳で天井高く吹っとばされながら、泰山府君はヒラヒラと三人に向かって手を振ったのだった。


【ご褒美だぉ、雪麗たん!】


「なにがご褒美だ……!」


【一度しかない人生、しっかり味わって、早く泰山府(こっち)に戻ってきてねぇ……! そんで次こそ踏んでぉ!】


【早ぐ来いなんが、余計だっぺ!】


「お前のようなものを踏むためのおみ足など、苳貴妃は持ち合わせていない!」


【そうそう、雪麗さんが踏むのは皇太弟さんだけだっぺな】


「それは嬉、もとい、それは違う」


 浩仁と美雀がすかさずツッコミとボケを繰り返すかたわらで、雪麗はかろうじて立っていた。


 どこがどう変わった、と明確には言いにくい ―― あえて言うならば、額の呪符(紫水仙)がなくなったときの感覚に似ている。

 身を縛っていたものがひとつ、なくなる。そして、本来の己に近づいていく。


 ―― 永遠に続くと思っていた運命が、終わったのだ。

 もう、過去に回帰しなくてもいい。


「…… では、参りましょう」


 泣くのはまだ早い、と己に言い聞かせ、雪麗は 【えっじゃあ雪麗さんが泰山府君踏んでも()えだ?】 「絶対ダメ」 と盛り上がるふたりに声をかけた。


「―― ありがとうございます、泰山府君」


【いいってことだぉ! お礼はまたの機会にしっかりもらうもんねぇ】


 遠ざかる3人の後ろ姿を、ニンマリと見送り、泰山府君は玉座にとん、と降り立った。


【さっ、仕事だぉ! ボクちん偉い!】


 ―― 玉座の前にはもう、次の死者が待っている。



※※※※



 霊道をひといきに蕣于へ飛び、浩仁の霊を現世に送る。


「次に会うときには、宮廷ですね」


「楽しみにしております、浩仁さま」


【ひょおひょお! ()え感じだっぺなぁ、ふたりとも……!】


 せっかく、つかず離れず自然な感じを演出しようとしたのに、美雀のヤジにより 「「えっ、そんなことは (赤面)」」 という定番のリアクションをとらざるを得なかったという、嬉し恥ずかしなイベントを経て、生身のほうの浩仁の目覚めまで見届けたあと、雪麗と美雀は再び霊道を飛んで後宮へ戻った。


 旅立つ前までそこにいた、清林宮の一室の床では ――


 春霞が、腹を抱えてうずくまっていた。


「お姉さま……! どうしよう…… いたい……」


 掃除用にと着せていた、粗末な(スカート)が、じんわりと濡れている。


 ―― 陣痛と破水が、始まったのだ。

 

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