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8-2. 疑惑②

 これまでに雪麗が経験した回帰(ループ)では、春霞が妊娠後に仕掛けてくる罠は2つ。

 1つは、浩仁皇太弟と雪麗の不義密通を仕立てあげることであり、もう1つは、生まれてきた皇子の殺害の罪を雪麗に着せることである。


 今回の人生では、1つめはすでにクリアした、と考えて良いだろう。

 蕣于(しゅんう)の地に侵略してきた土真国に黄鳳国が勝利を収めるのは、雪麗のこれまで8回の人生ではいずれも、蕣徳妃の出陣から半年以上のちのこと。春霞の出産は、蕣徳妃の凱旋に前後するのが常なのだ。

 浩仁の凱旋が蕣徳妃と同時期になると考えれば、春霞が浩仁にちょっかいを出す余裕は、もうないはずである。


(とすれば、次がいよいよ本題ですね ―― )


 どうすれば、皇子殺し終結(エンド)を逃れられるか、である。


 とにかく何でもいいからラクに死にたい、という思いは今でも変わりない雪麗だが、生まれたばかりの無垢(むく)な子を死なせるというのは、どうにもいただけない。

 復讐に生きた4度目のループで、憎しみに振り回されて自らが手にかけてしまったこともあるがゆえに、よけいにそう思う。

 ―― 幼い子が殺されるなど、決して、あってはならない。


(それに、香寧の裏切りも止めなければ…… )


 裏切るほうは別にじゃんじゃんやってくれてかまわない。ラクに死ねればそれでいいのだから。

 そう考えている雪麗ではあるが、その挙げ句に、口封じのために香寧が殺されるのは避けたいところだった。


 これまでの回帰(ループ)では、まだ雪麗は生き残ることにジタバタしていた。そのため、香寧が殺されるのも多少気の毒ではあるが 『裏切ったんだから当然』 程度にしか、とらえていなかった感がある。


 だが、『終わりラクなら全て良し』 と悟りを開いた目で見てみれば、違うことも見えてくる、というもの。


(あの、プライドの高い香寧が、裏切りなどという卑劣な行為を選択するのですから。なにか、よほどの理由があるはず…… )


【あのズル女の腹の子の、父親(てておや)を探すっぺ!】


(はあ…… 9回目になるまで、そのようなことにも思い至らなかったとは…… わたしも、(あるじ)失格ですね…… )


【んでだ、みんなの前で一気にバラしで、あのズル女、後宮にいられねぐしてやっぺ! 復讐だっぺ!!】


 完全に話が噛み合っていない雪麗と美雀である。

 極論をいえば、今の雪麗にとって、春霞の子が皇帝の(たね)であるかどうかというのは、全くもって問題ではない。

 もし本当に腹の子の父親が別の男だとしても、皇帝の閨房の管理をしているのは宦官である。

 宦官トップの暁龍が春霞とつながっている以上、おそらく隠蔽(いんぺい)は完璧だろう。

 つまりは、そこに首つっこんでも、何も出てこない可能性のほうが高いのだ。いやむしろ、つっこんだ首をそのままちょんぎられかねない危険性すらある。


(落ち着いてください、美雀。そもそも、どうやって探すつもりですか?)


【そんなの簡単だぁ。あのズル女の寝室を張ってれば、絶対に男がやっでぐるはずだっぺ?】


(やってきたとして、どうやってみんなにバラす気ですか)


【にししし…… 雪麗さん、忘れでねえが? あだすが、なんのだめに雪麗さんに無理やり憑依(ひょうい)しで、皇太后さんに大経奉納を言っだど思ってるだ?】


(そういえば…… 約束していましたよね。無理やり憑依したときには、最悪にヘタな書を美雀さんの手蹟()として)


【そごは思い出さなぐでいいがら!】


 美雀の推理と計画は、こうである。


 ―― おそらく美雀の遺書を書いたのは、春霞と密通している男に違いない。

 なぜなら華桜宮の女官はみな、春霞のあまりのヒドさに忠誠心などどこぞに消え失せているからだ。そんな彼女らに遺書の偽造などさせれば、絶対に噂になるに違いなく、最悪は宮正にタレ込まれる可能性すらあるだろう。


 そこで美雀は、春霞の元に忍んでくる男を華桜宮に張り込んで調べ、身元を特定するつもりであるらしい。

 そのうえで、男の筆跡を確認する。

 ここで役に立つのが、大経奉納なのだ。

 大経の写経は宮廷全員で行われるのが常。つまり、写経をとおして、宮廷全員の筆跡を得ることができるのだ ――

 

【筆跡さえわかれば、こっちのもんだっぺ!】


 得た筆跡をもとに、男と春霞の恋文を贋造してそれぞれに届け、逢瀬の機会を作る。

 そこを、誰か別の人間に踏み込ませれば、春霞はジ・エンド(終わり)だ。


【せっがぐ妊娠しだんだし、あのズル女の字で皇帝でも呼ぶっぺかなぁ…… にしししし……】


(それ、春霞がわたしにしたのとほぼ同じでは……)


【やられたらやり返すのは、当然だっぺ!】


(復讐なんて、大したことないですよ?)


【雪麗さんはお嬢さんすぎるなぁ。つまり人が()すぎ、ってごとだっぺ】


 お人好(ひとよ)しなわけではない、と雪麗は思う。単に9回目なだけだ。


【とにがぐ! 宴会がお開きになっだら、さっそぐ華桜宮に潜入だっぺ……!】


(まあ…… 頑張ってくださいね。わたしは協力できませんよ?

 なにしろこれから、写経の準備ですから)


【にししし…… なんだかんだ言っで、雪麗さんも張り切ってるでねえの。その意気だっぺ】

 

(別に、復讐のためではありません。誰かさんのせいで増えた仕事を処理するだけですよ)


【まっだまだぁ。わがっでるがら、ごまかさなくてもいいっぺ。一緒に楽しく復讐するっぺ!】


(…… 美雀さんがしたいなら、まあ止めはしませんが…… )


【よっし! やるぞー! えいえいおー!】


 会場は、ちょうどお開きになるようだ。

 最後の〆として、皆が唱和する 「黄鳳国勝利」 の声に合わせて拳を振り上げる美雀は、えげつない復讐を計画しているようには見えないほど、楽しげだった。



※※※※



 そして、夜半 ――


「硯と筆。全て予定数揃っております、雪麗さま」


「紙も墨もばっちりですよ、雪麗さま!」


「水は明日より、仙泉から必要分を汲ませて運ばせるよう、宦官を手配済みですので」


「ありがとう、香寧、明明。もうさがっていいですよ。明日は早いので」


 仙泉宮にて、大経の写経準備を終えたばかりの雪麗のもとに、嵐はふたたび、すごい勢いで飛び込んできたのだった。


【大変だっぺ大変だっぺ大変だっぺ!】


(どうしました、美雀)


【―― あのズル女の腹の犯人、あの宦官だっぺ……!】

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