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魔導兇犬録:脱大者  作者: HasumiChouji
第一章:太陽の下で
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脱大ブローカー 松本義志・暁美夫婦 (1)

 カミさんの弟の所属部署が特務機動隊である事は状況証拠しか揃っていない。

 しかし、ある内通者の御蔭で最後のピースが見付かった。

 状況証拠しか無いのは確かだが、裁判だったら「合せて一本」と見做されるレベルの「状況証拠」だ。

 今、俺達が乗っているのは……救急車。

 ただし、「外」の連中から入手したドラマや映画の撮影用だった車の中古品だ。

 判る奴には偽物だと判るだろうが、素人目には判別が付かない。

 人通りも監視カメラも少ない道を選んで移動し……大通りに出た途端にサイレンを鳴らす。

 向かうは義理の弟の一家が住んでいる警察の官舎だ。

「冗談じゃねえな……義理の妹と姪を誘拐するなんて……」

「あんた、その愚痴、何度目だよ?」

「一三回目からは数えるのをやめた」

「あんなクソ野郎だって、あたしの弟だ。最後が来るその時まで……夢ぐらい見させてやろうよ。自分の家族は……たまたま身内だったクソ外道どもに誘拐されたって夢をね……」

 事情を知らない奴が聞けば、夢は夢でも悪夢だろうが……多分、その時が来るまで、その悪夢が奴にとっての救いになるだろう。

 ……その時が来るまで、俺達への憎しみこそが、奴の正気を保つ為の力になる筈だ。

 でも……狂った世の中で正気でいられる奴ってのは、本当にマトモな人間なのか?

 ともかく、奴は……仕事中は私用の携帯電話(ブンコPhone)の電源を落してる筈だ。……これも、内通者からの情報だが。

 俺は、自分自身に言い聞かせる。

 義理の弟を裏切り、そのカミさんと子供を誘拐する訳じゃない。

 単に内通者からの依頼を果たすだけだ。

「おい、撤収の前に『外』の『正義の味方』さん達から手に入れた『呪符(フダ)』を起動しておけ」

 俺は囮となっている部下に連絡を入れた。

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