■■に逢うては斬る
「せん■ィ、ど■■庫ん■コとヲ!!」
その日の影の妖魔は数が多かった。人気の無い公園で一休みと座っていたところ、囲まれていた。
「芽ヲ■磨シ■く陀■い! 怪ィ■負■■いデ!」
喧しいものだ。
さっさと襲ってくれば良いものを。
腕に覚えこそあるが、私も年である。あまり俊敏には動けない。
ゆえに、相手の攻撃に合わせて迎え撃つ『後の先』を得意とする。妖魔たちから放たれた黒い影の塊を、周囲に張り巡らせた迎撃符にて、すべて撃ち落とす。
動く必要などない。空を舞う呪符たちが、紫光を伴い怪しく舞う。
私の周囲1.5mは絶対防御圏だ。侵せるものはそういない。
ましてや遠隔攻撃など。
「敵意ありとみなそうと思うが、いいかね? 乙」
「ええ。いいわ、おじ様。やってしまって」
乙は何とも嬉しそうな顔をした。この影たちが彼女の仇なのだろうか。仮にそうでないとしても、今や私にはどうでもいい事だ。彼女が喜ぶならと思っている。
「急急如律令、雷符、鳴る神現れ、地を均す。招来・天雷撃」
力を込めた符を天に投げ、解き放つ。向かってこないのならば、そうせざる得ない状況にするまでだ。投げられた符はたちまち雷の蛇となり、周囲一面広く薙ぎ払った。
白光迸る。
空間に満ちた電撃の残滓がピリピリと肌を焼いた。だが、直接狙われた影どもは皮膚だけでは済まない。数体は避けたようだが、動きの悪いものはそのまま焼き尽くされたようだ。
「キ、■■、ヨ苦■仲■ヲぉ■ォ■お■――――!!」
無策にも飛び込んで来たものがいる。
だが遅いね。どうしようもなく遅い。
私は、半歩軸をずらし、突き出された影の獲物をぎりぎりで避ける。そうすれば、相手はすでに私の間合いだ。
腕、に当たるのだろうか。そこを狙う。彼らには再生能力は無いらしいという事がここ数日の経験で分かっていた。新たに取り出した符を張りつけ、命じる。
「爆符・起」
瞬間、炸裂する衝撃と炎。
簡易の符術であるが、脆い彼らには十分に通じる。
結果、腕を吹き飛ばすつもりが、上半身が丸ごと吹き飛んだようだ。黒い液体を撒きながら崩れ落ちた。
――殺気。背後か。
視線を向けるより先に、腕が動くのは長年の経験ゆえだよ。後ろ手に投げた守護符が、迫った凶刃を阻んだ。生意気にも霊力を乗せた一撃か。バチバチと力と力が拮抗する。
不意を突いたはずの影から動揺の気配がする。力と力の拮抗に巻き込まれ身動きが取れないのだろう。だが、私の両手は空いている。怯えた気配が広がる。どうやら、次の手はないらしい。
――情けない事だね。
直接攻撃を仕掛けるのならば、防がれた時の用意もしろと伝えてきたはずなのだが。
「不動、縛業、焦熱地獄の筒。来たれ、迦楼羅炎」
地に放った符が呼ぶ地獄の業火は、瞬く間に粗忽ものを塵に帰した。
「――だめだね」
まったく、なんという事だろうか。
弱いのだよ。あまりに弱すぎる。ちっともなっていない。なっていなさすぎる。
このままでは、彼らは《《ひと》》り残さず、全滅する。私に殺される。
このようなものしか居ないか。この程度しか育っていないか。
これでは――、これでは――。
「おじ様?」
乙の可愛らしい声に意識が戻る。凄惨極まる戦場の只中であるというのに、乙は愛らしい顔を私に向けていた。だが、少しばかりの非難を含んだ声色だ。きゅうと眉根が寄せられている。すまないね。集中せねば、ね。
「ほら、おじ様。後、ひとりだよ。頑張ってよ」
「ああ。わかったよ。可愛い可愛い乙。私の娘」
乙は私の娘によく似ていた。
美しく聡明だった妻との間に生まれた、目の中に入れても痛くない娘。
彼女の願い通りに私は動く。
「笑っていておくれ。もうすぐに終わるのだから」
続
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