第58話
相手方も焦っているはずだ。次は直接王子を狙う可能性がある。そうなると舞踏会の時が怪しい。あんたらは鼻が効く様だから、怪しい人間がいたら教えてくれればいい。ああ、できるだけ、あんたらは別々に動いてくれよ。
ジャンはそう言って直に自分は報告してくると姿を消した。
教えるといってもどう教えたらいいのかわからないんだけど。
ディオ君にはジャンの言う事なんか聞かなくていいとは言われたけど。というかあの二人仲悪いのかしら。
シルヴィアとは別々に会場に戻る。
目立つあの娘と一緒にいてはお姉様に気づかれてしまうかもしれない。年の為お姉様がいる集団の近くの壁際に行き監視していた。よくもまぁあんな長時間遠まわしに嫌味を言えるものだと思いながら。
しばらくすると流れていた音楽が一斉に止んだ。自然と螺旋階段から繋がる2階部分へと目線を上げる。ほとんどの人間が同じようにしていた。
見上げた先には先程とは違う衣装ではあるが、美しい王子様が姿を現した。
その姿にうっとりする少女達が大勢いる。リリアも王子の本性とさっきの失態がなければときめいただろうか考える。直に否と答えはでた。一瞬王子の前に現れたカインの姿を思い出す。それと同時に自分の顔に熱が集まるのを感じるが、周りの少女達の歓喜する熱気にあてられたと思うようにした。
王子の発せられる言葉に耳を傾ける。あいさつをして、今日の事を話す
しかし、王子が発した内容は理解し難い内容だった。
「遠路はるばるお越し下さったレディもおられると思います。お越しいただいた全てのレディにこの舞踏会を楽しんで頂けるよう趣向を凝らしました」
そう話すと同時に王子の後ろから王子と同じ衣装、いや姿形すら一緒の男が5人ほど出てきた。ただ彼らは同じ仮面をつけていた。
多くの驚きの声が聞こえる。
「彼らは魔法で私に変装した私の部下です。私たちは仮面をつけさせて頂き、この舞踏会に参加します。全てが私だと思って下さい。舞踏会の間にお互いの気持ちが通じ合えば仮面を外します。仮面を外せば魔法が解けて本来の姿に戻ります。他にも何人か同様の者が現れます」
そう話をして王子本人も同じ仮面をつけ、後ろの彼らと一緒に一度下がっていく。
傲慢にも取れる発言。しかし王子かもしれない人間と踊る。もしかしたら王子かもしれないという希望を抱きながら少女達は王子に扮した彼らと踊りを交わす事になる。一部の人間を除いて本当に王子と婚約をしたいと思う人間も少なからずいるこの会場で他の少女たちは何を思っているのだろうか。舞踏会という場所に初めて足を運ぶ少女達はダンスをできるだけでも嬉しいと小さな声で話し合い、お姉様の様に王太子妃への椅子を望む少女達は自分こそが選ばれると言うように周りを牽制し合っていた。
「リリア、こんな所にいたの」
「えぇ、お姉様」
「ねぇ、リリア。アルフォード様ったらお優しいわよね。最初っから私としか踊らなかったら、後で私があの女達に嫉妬で何をさせるかわからないからあんなことを言ったのよ。もう、私だったら大丈夫なのに」
何故自分が本物の王子に選ばれると思っているのか。どうしたらそんなにポジティブな思考回路になるのか。ていうか、本当に王子が踊るかも怪しいのではないか。
表向きの理由は確かに全員に楽しんでもらうための趣向かもしれないが、裏の目的は裏切り者炙りだすものだ。
というかもしかし、この事が言いたくてわざわざ私の所まで来たのか。我が姉ながら凄い。
姉のよく分からない自慢のようは話を聞き流していると再び音楽が鳴り始め、螺旋階段から王子もどき達が降りてきた。さっきより数が増えている。
「美しいレディ。どうか私と一曲踊って頂けませんか」
同じ声・同じ言葉で少女達に手を差し出す。
リリアの隣にいた姉も同様にその手をとる。ホールの開けた中央部分で王子もどきと少女達が踊りだす。