第49話 王子②
「・・・・ア!リリアったら!!」
「!?って、え!?マリア様?」
ぼーとした思考回路を一気に現実へ引き戻す声。
「リリアさん、もう殿下達は退室されましたので戻って来て下さい」
呆れたようにディオの声も届いた。
「ごめんね、まさか一国の王子に逢うと思わなくて・・・・」
恥ずかしいと言わんばかりに顔を赤くするリリア。
「仮にそうだったとしても王子に逢って言う言葉があの言葉と言うのは・・・・・・」
先程は黙っていてくれていたようだが、やはり思う所があるらしく最近よく目にする無表情の中でも奇特な人を見る2つの眼がリリアを映した。
リリアとしては恥ずかしくて身体を小さくするしかない。
「もう、ディオもいいじゃない!ねぇ、リリアどうだった?」
マリアが諌める様に、そして興奮気味に言う。
「え?何がですか?」
問われる内容が解らず聞き返すリリアだが。
「何がじゃなくてお兄さまよ!ちょっと・・・大分私に過干渉気味ではあるけど、お兄さま素敵に見えなかった?見た目は」
「は?」
「もうリリアったら。リリアは今日お兄さまの『おくさま』の候補なのでしょう?私教えてもらったの。お兄さまの『おくさま』は私のお姉さまになるんですって!だからリリアがお兄さまを気にいってくれればリリアは私のお姉さまになるの!!」
そう嬉々として話す姿は、とれも可愛らしかった。が、しかし内容がいけない。これは早急に誤解を解かなくてはいけないことをリリアは知る。
「マリア様、それは違いますよ。今日の舞踏会は、たくさんいる女性の中から王子様、いえマリア様のお兄様が『おくさん』を選ぶのです。私が選ぶのではありませんし、第一に王子様が私を選ぶ事は100%ありえません」
「むぅ~~~どうして!?」
頬を膨らましたマリアにどう伝えればいいかリリアは悩んだ。
「変わっていると言いか何と言うか。あんな風に女性に言われたのは初めてだな」
アルフォードは舞踏会前に本日の最終チェックを行うため執務室に戻っていた。部屋に入ると同時に言葉をもらす。
「おや?さっきまでは『マリアを利用する不届者か見極める!』と言っていせんでしたか?」
「いや・・・・だって、これまでもマリアを使って王家に取り入ろうとしていた奴がいたわけだし、実際にマリアからあんなお願いされちゃなぁ 」
「『招待状』の件ですか」
「そうだ。幾らなんでも怪しいだろう。他にも一人で暗殺者を撃退するなんて怪しいし。彼女が今回の騒動に関わっている可能性・・・・おいっ!怖いよ!そんな顔でみるな!別に彼女が黒幕とか言ってるわけじゃなくてだな。脅されている可能性とかもあると思ってだな!」
「まぁ貴方が疑うのも無理はありませんね。しかし今のところ特に大きな動きもないようですね」
「あ?ああ・・・・でも必ず仕掛けてくる。そのために餌をまいたんだ。食らいついてもらわなければ。彼女には悪いが巻き込ませてもらう。そこで敵か味方かはっきりするはずだ」
「ええ、ですが彼女の件は私に一任して頂く約束です。今後の干渉はさけて頂きたい」
「彼女も一応俺のパートナー候補だけどね?でも珍しいな。お前が興味を持つ相手なんて。まぁ、さっきの感じといい俺個人としても興味ある。この件が落ち着けば・・・」
「誰も選ぶつもりもない人がよく言う。それとも諦めたのですか」
遮る様にカインがアルフォードの言葉を止める。その言葉にアルフォードは今までとは違う真剣な眼差しをカインに向ける。
「諦める?ふっ・・・・・あり得ない。あいつに逢う日まで、いや決着をつける日まで俺は結婚も婚約も絶対しない!」
「そうですか。安心しました。まぁ、案外簡単に逢えるかもしれませんしね」
そういい、カインは退室のためドアに向かう。
「え?なんだって?」
「いえ、なんでも。最終確認する事もあるのでこれで失礼しますね」
カインの小さな呟きはアルフォードの耳には届かず消えていいた。