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第47話 上と下

漆黒の髪、深い緑色の瞳。

整った造形の顔には笑顔がある。

けれど、その『笑顔』はリリアの知る、拝見したくない方の『笑顔』だ。

何故彼がここに居るのかさえどうでもよくなるほど、リリアは逃げ出したかった。

あれは危険。あの『笑顔』も、一瞬だけ合った眼も怖い。


「まぁ、いい所にいらして下さいましたわ。この者分も弁えず私に無礼なことを。即刻この者を王宮より追い出し、爵位の降格を検討された方がよろしいかと」

そう告げるグラーフ伯爵夫人は勝ち誇った様にリリアを見た。


「なんで!?リリアはマリアの大事なお友達よ!勝手なこと言わないで!」


「まぁまぁ、マリア様、行けませんわ。その様なものを庇うなど。あの者はマリア様の優しい御心を利用して王家に取り入ろうとする浅ましい者です。まだ幼いマリア様は騙されているんです」



まぁ、結果的にマリア様の権力で招待状の再発行してもらったからそうなるのかなぁ。

はっ!ってことは私ってば悪女!?やだ、ずっと一緒に居れば周りに感化されることもあると聞いたことあるけど、まさかこれがそうなの!?嫌だわ、気をつけなくっちゃ。悪女のレッテルを貼られるなんて私の人生プランにはないのよ。あくまで平凡でとりたて目立つ事ない人生を歩んでいくんだから。

ってちょい待て!今はそんなこと考えてる場合じゃない。って言うか変に刺激しないで下さい、教育係さん!



「そうですね。どうやらこの場に相応しくない人間がいるのは確かなようですね」

笑顔のまま話を続ける。


「ええ、そうですわ。はや「即刻王女の私室から退室、いえしばらくの間王宮内の出入りを禁じます。グラーフ伯爵夫人」


「・・・・・・・今、なんと?」


「おや、聞き取れませんでしたか?では、もう一度。グラーフ伯爵夫人、貴女には王宮内の出入りを禁止致します。一度ご自身の考え方を見直して頂く必要がありますからね」

当り前でしょう?とでも言う様にカインは教育係さん、もといグラーフ伯爵夫人に話す。


「なっ何故私なのですか!?」


「おや、理解できないと?困りましたね、貴女はその頭脳と回転の速さ、一流の淑女としての能力を買われ王女の教育係となっていたと思っていたのですが・・・・勘違いだったようですね」


「わっ私のどこに問題があると言うのです!?マリア様には王族らしい振る舞いを心掛けるよう教育してまいりました!」


「それは身分差についてですか」


「ええ、そうですわ。我々貴族は選ばれた尊き存在。下賤の者たちの様に替えのきく存在ではありませんわ」


「我々ね・・・・・・・貴女は私やアルフォード王子が最初に言った言葉をまるで理解していなかったようですね」


「なっどういう意味です!?」


「最初に教育係に就いて頂く際申し上げていたはずです。マリア様には従来の考えだけに拘らず、柔軟性も身に付く様教育して頂きたいと・・・・・貴女はご理解いただけていなかったようですね」


従来と言うのはもしかして『貴族至上主義』のことかしら。確かにこの10年にも満たない期間でその『貴族至上主義』を撤退する動きが活発になったと聞いた事がある。だから王宮に勤める人は実力で選ばれると聞いた事があるけど・・・


「御言葉を返すようですがそのような考え、正に机上の空論に過ぎない話です。現に今もその考えに賛同できない貴族は大在おります」



「現王のみならず、次期国王で有らせられるアルフォード様やマリア様までそのような御考えに走るようでは我が国家は下の者、いえ他国にも軽んじてみられ崩壊してしまいます」


興奮しながら話す姿は既に理性のコントロールが効かないようだ。不敬罪とみなされてもおかしなく発言。声を荒げて話す彼女の言葉は紛れもなく思っていた本心。

そこには『下』に対する侮蔑と今の現状による『上』の不安がありありと理解できた。


「つまり今の王の考えではいずれフェニスタリア王国が崩壊すると?」


一気に周りの空気が変わる。肌に刺さるようなカインの冷気と重い威圧感がリリアを襲う。だがその感覚に陥ったのは既に自分だけではなかった。

自分が有り余る失言を発した事を理解した彼女は恐怖と怯えに顔を歪ましていた。



「・・・・・・・いえっ・・・そ・・・・ような「黙りなさい」

それでも許しを請う様に最後の力を振り絞って会話を紡ごうとした。

だが容赦ない言葉が彼女の言葉を切る。


「私が何時貴女に発言を許しましたか。貴女は従来の思考に深く賛同されていたはず」


「もっ・・・・・・申し訳あ・・・・・・りませ・・・」

既に顔色を失った彼女の姿はリリアの眼からしても哀れにみえた。しかしカインの重く冷たい声色は続く。


「ああ、上の命令は絶対でしたかね?では命じましょう」


相手の思考回路を停止する。いや相手のすべての感覚を奪うような感覚。

誰一人動くどころか呼吸する事さえ苦しい。

壮絶な微笑みが襲う。


「解雇だ」


カインが最終通告を告げようとした時、違う声が静まり返った部屋に響いた。


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