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第40話 その心の奥に想う心は


静かな午後のひと時。特に急ぎの仕事もなく、次いつ来るかも解らない来客を店の奥にある椅子に座り待つ。

裏通りにひっそりと構える店は昼夜問わず静かなものだった。

男は眼を閉じ、耳を澄ませる。

男の耳は『聴く』ことに特化しており、意識すれば遥か遠くの『音』という音を聞くことができる。

一人一人履いている靴、その人の体重、癖により足音は違ってくる。男の耳に最近よく聞くようになった足音が聞こえ出した。この裏通りにはそぐわぬ、軽くリズムある足音である。

いつもより少し軽やかに、踊るような足音。しかし紛れもなく彼女の足音であろう。

男は思わず口に笑みを浮かべた。

後100mm・・・・・・・50mm・・・・・5・4・3・2・1・・・



勢いよくドアが開き、ドアに付けてある鈴が鳴った。


「伝時屋さ~ん~居ますか~!?」


声の主はやはり彼女のようだ。

椅子から立ち上がり声のする方に向かう。



「あ、よかった、居たのね!」


顔を見せると同時に少女から笑顔が溢れている。


「よぉ、お嬢ちゃん。なんでぇ、機嫌がいいみてぇだな。っとするとうまくいったかぁ?」


「ええ、そう!そうなの!!貴方スゴイわ!貴方が言った作戦で成功したのよっ!!」


興奮気味に話しだす少女を見て、自分の提案した策で上手くいったことを知る。

同時に予想が確信に変わった。

少女の妹は『シスコン』。あいつの追尾の術を破るほどの実力のある相手が、あの少女の妹とは・・・・あいつも苦労するな・・・いや、少しくらい苦労すればいいじゃないか、この際?でもどうなるだろうなぁ~

などといろいろ考えて、ふと気付く。


「そういやぁ~お嬢ちゃん。妹ちゃんを舞踏会に参加させるための策だったとはいえ、そう言っちまった以上、誰か紹介しにゃぁきゃならねぇぜ?あ、誰かホントに気になるヤロウはいねぇのか?」


こっちとしては紹介しようと考えている相手を知りたいとこだ。あいつは少なからずこの少女を気にいっている。いや、むしろ今までにないくらいの執着心を感じる時さえある。

問題は少女の方だ。あいつは性格さえ・・・・性格さえ除けば誰もが羨むパーフェクト人間だろう。もし自分が女であいつの本性を知らなければうっかり惚れてしまうほどだろう。普通にそこらにいる女たちは間違いなくあの顔で、優しく微笑みかけられでもすれば一発だろう。だがしかし、目の前の少女ははっきり言って普通ではない。そのくせ自覚はなく何故か普通にこだわり『普通』が一番な信念の持ち主。そんな少女が明らかに『普通』じゃないあいつを恋愛対象として見るだろうか・・・・・・あ、なんかやばい。本気で考えれば考えるほどあり得ない気がしてきた。

ああ、いけねぇ。いろいろ考えていて目の前の少女の存在を忘れるとこだった。



「・・・・・・・」



「・・・・・・・」



しばらく無言の時間が流れる。




「その件なんだけどね、実は本当に紹介したいなぁって思う人がいて・・・気になる相手というか・・・伝時屋さんも知ってると思う人なんだけど・・・・・」


ほんのりと頬を朱に染め、おずおずの少女が言葉を紡ぐ。

その言動にまさかと期待してしまう。俺も知っている相手なんて限られている!これは・・・


「・・・・なんていうか、こんなこと初めてだし、相手の人にも承諾を得てないんだけど・・・・」


おお、まさか!なんだよ。やっぱりお嬢ちゃんも年頃の娘だったん・・・・



「王宮騎士団にいるディオっていう男の子なんだけど・・・確か本人から昔の知り合いだって聞いたんだけど、どういう知り合い?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・今、誰って?」



「もう、だから王宮騎士団に所属しているディオ君!もしかしてディオって名前の子、他にもいるの?あ、そう言えば私ディオ君の姓、聞いてなかった。今度聞かなきゃ」



・・・・・・・・・・王宮騎士団にディオなんて名前の人物は1人しかいない。っというか自分の知り合いにディオなんて1人しかいない。

んで、そのディオとお嬢ちゃんが・・・・・・・えっ!?どういうこと!?!?

確かに王女のお忍び城下町探索の際に2人は一緒に行動している。え、もしかしてその間に愛が芽生えちゃったの!?このお嬢ちゃんに!?あのディオに!?

そんなまさか・・・・・・



「私、同年代のお友達っていなかったから、こんなことって初めてで」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


再度頬を染め、それを覆い隠すように両手を頬に当てるその姿は、さながら恋する少女のようだ。

が、しかし。


「・・・・・・友達?」



「ええ、友達。あ、ちゃんとこれは本人の承諾を得てるから!」

だから、私とディオ君は友達なのよ。と、そう続ける。



え、ちょっとおじさんついていけない。なんで友達?っていうか、なんで友達で頬染める?なんで紹介する相手が友達?え、どういうこと?



「ディオ君なら、マリア様命だから、あの娘を見ても惑わされなさそうだし・・・・あの娘もディオ君なら気にいるのまではいかなくとも、悪く思わないはずだし・・・私今まで友達ってほとんどいなかったから、嬉しくって。流石にマリア様は紹介できないと思うんだけど・・・・せめてディオ君は紹介して堂々と遊びに行きたいじゃない?」



「・・・・・えーとぉ、つまり・・・・お嬢ちゃんとディオは友達で、それ以上の関係ではねぇ?」



「当り前じゃない。ディオ君は大事な、大事なお友達なのよ!

ディオ君だって選ぶ権利があるのよ。失礼よ、もぅ!」


心外だと言わんばかりに目の前の少女はぷりぷり怒りだした。



「・・・・・・・・・・」



「あ、でも舞踏会で理想の相手に出会えるかも!王子様の結婚相手を探すのが目的の舞踏会だけど、王子様以外の男性がその場にいないわけじゃないんだし。家が農家とか商家、下級貴族あたりの近衛とか・・・」



「・・・・・・それよりも、もう少し上を狙ってみたらどうだ?王子の側近だとか、高級官僚とか・・・・・宰相とかよぅ?」


探るように、そして淡い期待を胸に聞いてみる。



「やだ、あり得ない!想像もできないわ。第一宰相って、身の丈を弁えろって感じよ、自分に。絶対ないわ。私の理想と正反対の位置にいる人なんて最初っから対象に入ってないわよ」


淡い期待は見事に打ち砕かれる。それはもう、完膚なきまでに。

どうなるんだろう、これ。

もう、いっそ聞かなかったことにしたい。



「・・・・そう・・・か。まぁ、頑張れよ」


なけなしの気力でそう言い放つ。

そんなことなどまったく理解していない少女は



「うん。あ、もうこんな時間!今日は報告とお礼を言いに来ただけなの、本当にありがとうね!また来まーす~」


笑顔で礼を述べると店を去って行った。


・・・・また来るって、ここは再々人が来るとこじゃぁねぇんだが

ああ、やめよう。せめて今だけは何も考えまい。

















裏通りから人々が賑わい行き来する大通りまでの細い裏路地。

日も沈みかけ、影の長さも来る時より長くなっているのを感じる。




『誰かホントに気になるヤロウはいねぇのか?』



あの時頭に過ぎったのは

深く透き通った緑色の瞳。

頬を・・・・・髪を梳いたあの手。

雫の蒼い宝石。


よく似合います。



駄目ですよ。もう私のものです




違う。違う。

思い出すたびに胸の奥が締め付けられる感じも、早くなる鼓動も。


ガラス越しに映る自分の頬が、熟した紅い果実のように真っ赤なのも、夕日のせいだ。



そう自分に言い聞かせる。

この頬の赤みも胸の高鳴りも、全部夕日と走ったことにしてしまおう。



リリアは家までの道のりを駆け足で帰った。













何カ月空いたんでしょうか・・・・ホントすいません。

読んで下っている皆様、本当にありがとうございます。

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