第32話 純粋な少年
はぁーーーーーーーーーーーーーー
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「・・・・・・・・・・・・・・・・リリアさん、何かあったんですか?」
「えっなんで?」
「・・・・・沈んだ顔で何度もため息ついてるじゃないですか」
「あ~ごめん。ちょっとね・・・・・・・・」
私とディオ君は本日再度下町を歩いている。今回も彼は今時の若者ファッションだ。剣はないがどこかに隠し持っているかもしれない。これから一緒に買い物をしてマリア様に会いに行く予定だ。ディオ君は今日午後からマリア様の護衛らしく私を迎えに来てくれた。わざわざ休みの時間に申し訳ない・・・・
ああ、でも本当にどうしよう・・・・・
リリアは昨日起きたことを思い出していた。
優雅な?ひと時を過ごしていたのに最後は燃えた招待状と一緒で灰になった気分だ。お母様もシンデレラの招待状は最初から不必要だと言うし、本人に至ってはショックどころか招待状がないのなら行く義理も義務もないと笑顔で答える始末・・・・・・・・・
「ねぇ、ディオ君。ちょっと聞きたいんだけど・・・・・・・舞踏会って招待状がないとやっぱり入れない?」
駄目もとでディオ君に聞いてみる。
「?はぁ、一応あの招待状が入場チケットのようなものですから・・・・リリアさん招待状届かなかったんですか?」
ディオ君は不思議そうに話す。
「んー実は届いたんだけど紛失?しちゃって・・・・・」
紛失というか消滅?帰らぬ人?
「それは・・・・舞踏会は難しいですね。あ、でもどうせリリアさんはマリア様に会う約束なので当日わたしがお迎えにあがってそのまま城に入りますか?だったら招待状がなくても城に入れるし、マリア様にお会いした後舞踏会に出れると思いますが・・・・・」
まぁ、マリア様がリリアさんを離してくれるかわかりませんが・・・・・
「いや、招待状がないのは私じゃないの。妹なの」
ディオ君の気遣いに感謝しつつもその提案は難しい。
母と姉の手前一緒に舞踏会に行かなければなるまい。お母様は私に期待などしていないがそれでも世間体もあるし、実の娘でもある。お姉さまに至っては今度も私を引き立て役に使おうとするはずだ。まぁ、最初一緒に居れば後は適当に抜けてマリア様と遊びつつ影からシンデレラ玉の輿計画を実行する予定だった。
「妹さん、ですか?」
「うん・・・・あ、私の招待状を妹に渡すことはできないのかな?」
あの招待状1人1人に名前入っているから駄目かな。最悪私は仮病でも使って行かないようにしてあの娘に行かせるのはどうかな。さっき言ったみたいにディオ君にお願いしてマリア様にだけ会いに行くのはどうだろう。舞踏会には出なくても別にいいし。
「リリアさんって妹さん思いなんですね」
ディオ君が感心~と言う感じで言う。まぁ、普通に考えれば自分に届いた招待状、それも城からのをわざわざ人に渡す人間もそうそういるまい。
が、
・・・・・・・・
ん?妹思い?
・・・・やばい、今鳥肌立った。
別に妹思いなわけじゃ・・・・むしろ反対で妹を家から追い出したいから舞踏会で王子様に見染められて結婚でもしてくれないかな~という、はっきり言って邪悪な?心?しかないのだが・・・・まぁ、そんなことディオ君に言えないが。
「・・・・・いや~まぁ、あの娘、まだ社交界に出たことなくって・・・折角だからお城での舞踏会をデビューにさせてあげればなんて・・・・思ったり?」
うう、あまりに疑われなさすぎて心苦しい・・・・ごめんね。
「でも招待状を他の人に渡すのは王家に対して不敬に値するかと・・・・」
ああ、やっぱりそうだよね。普通考えないよね。
「・・・・でも一番の問題は他にもリリアさんとは違う意味で他の人から招待状を貰って舞踏会に参加する人がいる可能性があることですね」
「・・・・・・えっ?どういうこと?」
ディオ君の言っている意味が解らなかった。でもディオ君は神妙な顔つきになって考えている。
「・・・・ここでは話しにくいのでどこか入りませんか?」
そう言う彼の言葉に頷き、私たちは手短な店に足を運んだ。
「・・・で、どういう意味なの?」
身近なカフェの最奥の席に座り、注文した飲み物が来た時点でそう話しかけた。
わざわざ人気の少な暗く最奥の人が少ない席を選んだのだ。きっとあまり聞かれなくない内容だろう。
「今回招待したのは国中の年頃の娘だというのはご存知ですよね」
私はその言葉に頷く。
「年頃といっても王子の年齢に合わせ下は16歳、上は確か22歳までだったかな?まぁ、22歳までに結婚していない女性は少ないからほとんどが10代後半の女性ですね、後は当然ながら既婚者、貴族の場合は婚約者がいて結婚をすることが決まっている場合、修道女などは最初の時点で選別させ招待状が送られないことになっています。招待状が届いても恋人がいた場合や他の理由でも舞踏会は強制参加ではないので来ない人もいるでしょう。しかし反対に参加したくても年齢や他の理由で招待状が送られない方もいます。その方々からすれば喉から手が出るほど招待状は欲しいものだと思います。例え身分を偽ってでも・・・・・」
そうか、シンデレラはもうすぐ16歳になるけど今年中に16歳にならない子は強制的に参加できないんだ。他にも婚約者がいる場合は参加できない。普通の女の子なら参加したいはず・・・・特に貴族なら婚約者がいようと舞踏会に参加し泡良くは王妃の座に就こうと考えるかもしれない。
「招待状がなければ舞踏会に参加できない・・・裏を返せば招待状があれば参加できる。城では招待状を持って来た人が本当に本人か確かめる術はありませんから」
「・・・・つまり誰かのを奪ってでも舞踏会に参加する人間がいるってことよね」
ディオ君は頷く。
「一番危険なのは王家を害する人間がその招待状を手にした時です」
「・・・・もしかしてこの前みたいに暗殺者が紛れ込む可能性が高いとか?」
また頷かれた。
ってやばいだろ!!王様もそんな危険なことなんで考えたかな。もう普通にお見合いでもさせればよかったのに・・・・ああ、普通に行きたくなくなってきたな。
あれ?
「ねぇ、じゃぁマリア様も危ないじゃない!?」
この前命狙われたばかりだよね!王族って!ちょっと王様可愛い娘が危険に晒されてもいいの!?
「マリア様も危険ですが一番の狙いはアルフォード王子です。前回マリア様を襲ったのもアルフォード王子への脅しかと。元々アルフォード王子はあまり表舞台に出ない方なので。まぁ、この前の一件で反王家側の人間はほとんど根絶やしにできたので危険は少ないはずですが万が一がありますから・・・・」
「・・・・というかディオ君、こんな重要な話、私聞いてよかったのかな?」
これ、結構とういかかなり内部的な話だよね?聞いたら不味くない???
「リリアさんはこの前の一件にも関わっていますし、マリア様の大切なご友人でもあります。話しておいた方が後々の為にもなると思いますし・・・・この前の一件のようなことないとは思いますが、このことを聞いて不安になれば当日出席しないという手もあります」
「えっ?」
どういう意味・・・・・
「必ずしも安全とは言い切れないと言うことです。当日マリア様と親しくしているのを見られたら貴女に被害が及ぶ可能性があります。マリア様もリリアさんが怪我をするかもしれないと知ったら納得してくれるはずです」
真剣な表情で私の眼をまっすぐ見ながらそう言う。心配してくれているのだろう。この前のようなことが起きるかもしれない。この前のように運よく相手のスキをついたり、すぐに誰かが助けてくれるか解らない。だから大事な内部情報をわざわざ教えてくれたのだ。
その心遣いに心が温かくなった気がした。純粋で心優しい・・・
でも・・・・
「ありがとう・・・・・でもディオ君私のこと甘く見てるわね。私ね、危険察知能力と逃げ足には自信があるの。この前も大丈夫だったでしょう?」
「・・・・危険察知能力ですか?」
ディオ君がなんだそれ?とでも言いたいのだろう。少し眉間に皺を寄せた。
「うん。だからもし仮に前と同じようなことあったとしても大丈夫だよ。なにかあればすぐに逃げるよ。またタコさんを常備しておくのもいいかもね。あ、防犯用のベルも持って行こうか。それに優秀な騎士団の人やディオ君もいるしね。だいたい私将来はのどかな場所でゆっくり自然と戯れながら老後を過ごすのが夢なのよね、家庭栽培とかしてさ。だからその夢叶えるまでは死なない、てか死ねない」
そう、何時か必ず手に入れて見せる。平凡な日常。穏やかに過ぎて行く時間の中、私でもいいって言ってくれる平凡な夫と出会い、ささやかな幸せを噛み締めながら2人で手を取り合って生きて行くの。
「君の家庭的なところが好きだよ」とか「一緒に立派な畑を作っていこうね」とか「平凡な君と僕、とってもお似合いだと思わない?一緒に平凡な毎日をエンジョイしようゼ!」とか言ってくれる人・・・ああ、なんて素敵。
動物を飼うのもいいな・・・チュウ吉ぐらいなら一緒に暮らせるわね。あの子はいい子だし、もう愛着がわいちゃってるし・・・ネズミって長生きできるかしら。
そして子供を授かってその子供が成長していくのを微笑ましく眺める・・・・
きっと途中で反抗期なんか迎えるんだろうな、でも最後には「お母様、僕お父様の後をしっかり継いで立派な伯爵になるよ」とか言ってくれる。女の子だったら一緒に料理したりして・・・・・・最後はその子供に家を任せて夫と一緒に静かな場所に隠居。ああ、なんて幸せな私のライフプラン!!
「・・・わかりました」
全力でマリア様とリリアさんをお守りします。
ディオ君はそう言ってくれた。
「うん。お願いね」
と私も言ったはいいが問題はシンデレラの招待状の件だ。さてどうするか・・・・
ライフプラン・・・・叶えるために必死なリリアです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。