第30話 親と子
予想以上に帰宅が遅くなった。あの後どうやって家まで帰って来たか覚えてない。気付いたら家の前であたりはうす暗くなっていた。だが今のリリアにはさっきまでのことを思い出す気力もなかった。
いつもよりだいぶ遅い時間に帰ることになってしまった。不安を抱きつつ家に入る。
「・・・・・ただいま」
「あら、リリア。こんな時間まであなた外に居たの?気付かなかった。信じられない、共もつけずに淑女たるものが外出なんて。まぁ、あんたのその容姿格好じゃねぇ~」
「・・・・マリーお姉さま、帰ってらしたの」
珍しくお姉さまが先に帰っていた。最悪だ。
マリーお姉さまは私とは違う茶髪の艶やかな髪にシンデレラよりは劣るが社交界でも華となる容姿をしている。若干性格の悪さが顔に染み出てしまっているが・・・
でも今日は機嫌がよさそうだ。
「ええ、つい今しがたね。今日はレイモンド伯爵家のお茶会に行っていたの。ご子息に気に入られてね。まいっちゃうわ、あの容姿で私に釣り合うと思ってるのかしら。でもまぁ、センスはいい方なのよ。見てよ、このネックレス!美しい私にお似合いよ」
「・・・・・はぁ。マリーお姉さま以外に似合う人はなかなかいないでしょうね」
・・・というかあんな金ぴかでゴテゴテしたものなかなかないよ。いろんな石が入っているみたいだけど、いろんな(石の)色が混ざって気持ち悪いよ、正直。
そんな私の気持ちなど露知らず、お姉さまは上機嫌のようだ。
「・・・・リリア、帰ったの?」
その声に一気に緊張が張りつめた。手足が冷たくなるのを感じる。
「・・・・お母様」
姉と似た容姿に、もうそれなりの歳のはずなのに年齢を感じさせない色気を漂わせた母親が立っていた。
「・・・・また図書館に行っていたの?いい加減レディとしての自覚をもったらどうなの。あなたはマリーと違って人の何倍も努力しなきゃならないのよ。こんなんじゃおちおち社交界にも出せないじゃない」
「・・・・ごめんな」
ああ、この人のこの一言で今日の楽しかった気分を全部忘れそうだ。まるで役立たずとでも言われている気分に陥る。お姉さまとは正反対の自分・・・この人にとって私は・・・・
「お義母様、食事の用意が整いましたわ」
私とお母様の話を遮るようにシンデレラが現れた。
・・・・・今、なんといった?私の聞き間違えでなければ『食事の用意が整った』って言ったような・・・・まさかね、そんなまさか。
「リリア、いつまでそこにいるつもりなの。早く来なさい」
母親が再度呼びかけるまでリリアはさっきまで気分が滅入っていたことも忘れシンデレラが放った一言に思考を停止していた。
前を歩くお母様たちに今日のは自信作だと笑顔で話しかけるシンデレラは何故か輝いているように見えた。
嘘だと言って・・・・・・
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「どうぞ、召し上がって下さい」
私たちは食事のため各々のいすに座った。シンデレラは共に食卓をすることを許されておらず、給仕を行うことが暗黙の決まり事だ。
にこにこと笑顔で私たちの目に前に食事が並べる。天使のような顔で並べる食事はまるで食べれば最後、昇天できるような品物だった。さしづめシンデレラはこれから天に召させる私たちにたいしての神様の使いか、はたまた、天使の皮を被った死神か。どっちかっていうと後者か。
「・・・・シンデレラこれはなんですか」
「まぁ、お義母様、見ての通りスープですわ」
スープ・・・・これが!?紫色と黒が混ざったような色のどろどろした物体が!
「・・・これはなんですの?」
「それは若鳥と野菜のホイル蒸しですわ。お義姉さま、美容に気を使っていらっしゃるから・・・・鳥の皮には美容成分が含まれているらしいんですのよ」
いやいやいやいや、鳥の口の中にホイルと野菜が入ってますけども!普通逆だよね!!可哀そうなことになってますけども!!最近やっとまともな卵焼作れるようになったばかりだろうが!
「あ、私今日ヴェルディア卿に食事誘われていたんでしたわ!!急いで支度しないと!!お母様、よろしいですわよね?」
「ええ、ヴェルディア卿とは親しくしておいた方がいいでしょうから。私も今後のため同席するわ。リリア、貴女は来なくていいわ」
そう、早口に2人はいいすぐに馬車を呼んで家を出て行った。ヴェルディア卿がどんな人であれ、あの2人の餌食になるのかとおこうと少し同情してしまう。きっと貢ぐだけ貢がされてお払い箱だろう。いつものように。
「まぁ、せっかく腕をふるって作りましたのに・・・」
シンデレラがしょんぼりとした顔で言い放った。
どう作ったらこうなるのか。でも珍しくしょんぼりした顔とさっきお母様との間に入って助けてくれたことを思い出し思わず言い放った。
「・・・・私が食べるわよ、せっかくの食材がもったいないじゃない。ほら、あんたも座って一緒に食べるの」
私もつくづく甘いな~そう思いつつシンデレラは座るのを待った。
いただきます・・・そう言い、私は勇気を振り搾って紫と黒のコントラスのスープをスプーンに掬う。大丈夫!きっと紫芋のスープよ、芋が入ってるから多少どろどろしているだけよ!・・・そう自己暗示をかけて口に運んだ。
口にいれた瞬間舌から全身に向かって激痛と痺れがきた。今日の痺れ粉なんて比ではないぐらいの・・・・あまりのことに私はそのまま気を失った。
ああ、やっぱり・・・頭の片隅でそう思いながら私の意識は途絶えた。