光の都・フライヤでの戦い
アンシャルは聖堂騎士たちを率いて、トーデス・マシーネの軍団と対峙した。
アンシャルは一番前で指揮を執っていた。
「セリオンからの情報だと、敵は腹部に動力炉を持っているらしい。つまり、腹部が敵の弱点だ。全軍、敵の腹部を狙って攻撃しろ!」
「おおおおおおお!!」
騎士たちがとどろく雄たけびを上げた。
「これより、敵軍との戦闘に入る! ゆくぞ!」
アンシャルは風王剣イクティオンを構えて、トーデス・マシーネの軍団に突入した。そのあとに続いて、聖堂騎士たちが抜剣して突撃する。
「風振剣!」
アンシャルは振動する風の刃でトーデス・マシーネを斬り捨てた。アンシャルの一撃は敵の装甲を破り、動力炉に致命的な一撃を与えた。トーデス・マシーネは倒れ、異音を響かせた後、爆発、四散した。
「フッ、他愛ない。敵はゴーレムと機械の融合体だったな。無機質な人形どもか。相手としてはつまらんな。生きていて感情のある人間のほうが戦いやすい」
アンシャルはさらに風振剣を放ち、トーデス・マシーネたちを葬り去った。
アンシャルは騎士たちにある作戦を伝えていた。それは三人一組になってトーデス・マシーネ一体と戦う戦法だ。騎士たちは少数で多数のトーデス・マシーネと戦うことになる。アンシャルは数の不利を補うためにこの戦法をとらせた。
「多連・風翔槍!」
アンシャルは多くの風の槍をだした。風翔槍は一発ずつ正確に敵の弱点を貫通していく。
「人形ども! これ以上先には行かせんぞ!」
トーデス・マシーネが次々と爆発した。
一方、ヴァナディース軍もトーデス・マシーネと戦闘に入った。ヴァナディース軍は剣と槍を装備していた。そんなヴァナディース兵はトーデス・マシーネに突撃していった。ヴァナディース軍もトーデス・マシーネの弱点は知っていた。聖堂騎士団と情報の共有をしていたからだ。
突撃するヴァナディース兵にトーデス・マシーネは両手からレーザーを撃って迎え撃つ。
レーザーは多くのヴァナディース兵を負傷させた。ヴァナディース兵はレーザーをやり過ごしながら、トーデス・マシーネに突撃していった。
セリオンとアルヴィーゼは、アルテミドラの塔を目指して進んだ。アルテミドラの塔はフライヤ市内の小高い丘の上にあった。塔の頂上にはアルテミドラ宮へのワープゲートがある。
「セリオン、時間がない。一気に空間転移してあの塔へと向かうよ。アンシャルさんたちがトーデス・マシーネを相手に戦っていられるうちに、君はアルテミドラを倒すんだ!」
「わかった」
「よし、じゃあ転移しよう!」
セリオンたちはアルテミドラの塔まで一気に空間転移した。
「塔の近くにこれたね。これで…… セリオン! 気をつけて! 何かいるよ!」
アルヴィーゼはセリオンに注意を促した。禍々しい闇が地面からあふれる。その中から、屈強な体を持つディアボロス Diabolos たちが現れた。合計で10体いるようだ。
「こいつらは何だ?」
「たぶん、この塔の守りだろうね。セリオン、敵は10体いる。半分ずつ相手にしよう」
「ああ、いいだろう」
アルヴィーゼは輝く壁を作り、ディアボロスたちを分断した。これで一対五になった。
「じゃあ、セリオン。そちら側は任せたよ」
「ああ」
アルヴィーゼは滑らかな長い曲刀を手にした。アルヴィーゼはディアボロスたちに斬りこんだ。ディアボロスたちはファイア・ブレスを出した。ファイア・ブレスはいくつもの壁のようにアルヴィーゼに迫った。アルヴィーゼは高速で上昇し、ファイア・ブレスを回避した。そのまま空中に滞空する。
「いくよ!」
アルヴィーゼは急降下し、一体のディアボロスを曲刀で斬り捨てた。
他のディアボロスの攻撃。ディアボロスたちは鋭い爪で切りかかってくる。それをアルヴィーゼはすばやくかわすと、反撃してディアボロスの首を切断した。これで、残り三体になった。
三体のディアボロスたちが右手に雷球を作り出し、投げつけてきた。
アルヴィーゼは空間転移し、ディアボロスたちの中に移動した。ディアボロスたちが接近に気付かぬあいだに、アルヴィーゼは曲刀を振るって、ディアボロスたちを斬り刻んだ。
五体のディアボロスは全滅した。
「まあ、こんなものかな」
アルヴィーゼは曲刀をしまった。
一方、セリオンのほうでは。
ディアボロスたちはセリオンに向けていっせいにファイア・ブレスをはいてきた。高濃度のファイア・ブレスが来たが、それにおじけづくセリオンではない。セリオンは氷結刃を出した。そしてファイア・ブレスすべてを斬り裂いた。
セリオンはブレスの隙をついて、一体のディアボロスに接近し、すばやく斬殺した。
さらにセリオンはディアボロスたちが行動する前に、首をはねとばす。さらに氷星剣を出すと、二体同時に大剣で貫き、セリオンは一気にディアボロスを絶命させる。
「たあいない」
五体のディアボロスたちは全滅した。アルヴィーゼの壁が消える。
「どうやらセリオンもディアボロスを倒したみたいだね」
「ああ、この程度の相手など軽いな」
「フフフフ、さすがだね。スラオシャから聞いた通りだ」
「? スラオシャから?」
「そうだよ。ぼくとスラオシャは友人同士なんだ。彼から君のことをよく聞かされたよ。だからさ。だからぼくは君の前に現れたんだよ」
「そんなつながりがあったのか。スラオシャの奴……」
「さあ、セリオン。塔の頂上に向かうんだ。ぼくが案内できるのはここまでだよ」
「わかった。おまえはこの後どうするんだ?」
「ぼくは独自に戦うよ。聖堂騎士団やヴァナディース軍を援助できるようにね」
「そうか。ありがとう。行ってくる」
「気をつけて!」
セリオンは塔の中に入っていった。
テンペルの大聖堂には負傷者が続々と運び込まれていた。負傷者たちはうめき声を上げてベッドに横になっていた。テンペルのシュヴェスターは回復魔法の習得が義務となっている。そのため、彼女たちは回復魔法による治療と看護の二つをこなすことができた。
「ぐうう!? 足が、足が痛い!」
ひとりの騎士が苦痛を漏らした。
「足が痛いのね? それじゃあ、足を見せて!」
ディオドラはひとりの騎士の足を診るため、破れたブーツを脱がせた。そして傷を見つけると、そこに回復魔法をかけた。騎士の顔から苦痛が消えていく。
「これで大丈夫よ。でも失った血までは取り戻せないから、しばらく安静にしていなさい」
「ありがとうございます、シュヴェスター……」
そういうとその騎士は気を失った。
シエルやノエルも大聖堂内で働いていた。次々と運び込まれる負傷者の数は、シュヴェスターたちに戦闘の激しさを思い知らせた。
「セリオンや兄さんは無事かしら……」
ディオドラは入口のほうを眺めた。
「セリオンさんや、アンシャル様のことが気になっているのですね、ディオドラさん?」
「クリスティーネちゃん」
そこに黒いスーツを着たクリスティーネが現れた。
「でも大丈夫ですよ。セリオンさんもアンシャル様も、ここには運び込まれていません。きっと戦場でご活躍なさっているに違いありません」
「ありがとう、クリスティーネちゃん。きっとそうね。二人が負傷したなら、ここに運び込まれてくるものね。神に祈りましょう。ああ、神よ、セリオンと兄さんが無事でありますように」
その場でディオドラは神に祈った。
「次々と負傷者が運び込まれています。それにやはり見たくはありませんが、戦死者もいるようですね。今のところ、私たちの手で間に合っていますが、これ以上負傷者が運び込まれたら人手不足に陥りますね」
「今は全力を尽くして治療と看護にあたりましょう。あっ、また運ばれてきた人がいるようだわ。私たちも働きましょう」
「風振剣!」
アンシャルは風振剣でトーデス・マシーネを一刀両断にした。トーデス・マシーネが爆発する。
「くっ…… まだ現れるのか……」
戦況はアルテミドラ側の優勢になった。なにせ敵の数が多く、敵は大軍を一気に投入してきたからだ。
敵は各拠点を次々と占領しているらしい。ヴァナディース軍も苦戦中とのことだった。
ヴァナディース軍は編成されてまだ間もない。軍の強さは訓練に依存する。いまだ練度が十分でない軍にこれ以上の期待をするのは無理だった。
つまり、ヴァナディースの戦力では聖堂騎士団が最も精強な部隊なのである。
「これ以上、このラインを防衛するのは難しいか…… しかたがない。一時後退する!」
ちょうどそのころ、スルトが乗る馬車がフライヤに到着した。
スルトは馬車の中から外を見ると。
「どうやらもう戦闘が始まっているようだ。まずは現状を把握したいが、この状況では完全にとはいくまい。アリオン、おまえはアンシャルと合流しろ。エスカローネ、おまえは大聖堂に向かえ。そこで負傷者の看護を頼みたい。私は軍と合流する」
「わかりました。俺はアンシャル団長のもとに急ぎます」
そう言うと、アリオンは走っている馬車から飛び降りた。
「エスカローネ、おまえは妊娠中の身だ。この馬車でおまえを大聖堂まで連れて行ってもらえ。私はここで降りる。また、会おう!」
「はい、スルト大統領!」
スルトは馬車から跳び下りた。エスカローネは馬車の中で祈った。
「神よ、セリオンをお守りください」
アンシャルが多連・風翔槍を放った。すべての風の槍がトーデス・マシーネの腹部を貫通する。そのままマシーネたちは爆発した。
「物言わぬ人形ども! これ以上先へは行かせはしない! 私たちはこの場を死守する!」
トーデス・マシーネが両手からレーザーを撃ってきた。アンシャルは長剣を振るってレーザーを弾き飛ばす。レーザーはトーデス・マシーネに向かってはじき返された。
「敵は数で押す戦略だな。圧倒的物量で私たちを始末しようとしている。だが、見くびるな! 見ろ、この風の集まりを!」
アンシャルの周囲に膨大な風がつどった。その風は吹き荒れて、方向性を求める。
「くらえ! 風王烈衝破!」
すさまじい風の流れが刃と化して、トーデス・マシーネたちを襲う。アンシャルの前面に展開していたマシーネたちが二百体は消し飛んだ。斬り裂かれたマシーネたちは次々と爆発し、明るい火をともした。スルトの技にはおよばないものの、アンシャルの全力もすごかった。
「フッ、まるで鬼火だな。さすがに大技は消耗が激しいか…… ん?」
アンシャルは自分がいるところからスルトの技、雷霆が降り注ぐのを見た。
「あれは…… スルトの技か! 戦友諸君! スルト大統領が帰還された!」
「おおおおおおおお!!!」
騎士たちの士気が大きく高まった。騎士たちは戦意を高めて、マシーネとの戦いに身を投じた。
と、そこに何者かがアンシャルめがけて特攻をかけてきた。
「!?」
アンシャルはとっさに反応し、それを回避する。アンシャルは特攻してきた敵を見た。
「なんだ? 新型か? また新しい人形か?」
敵はカブトムシが直立したような姿をしていた。外見から機械であることがわかる。
「フフフフ、よくぞ我が突撃をかわしたな。さすがは聖堂騎士団長アンシャル・シベルスクよ」
「!? しゃべれるのか!?」
敵は宙に背のバーニアを吹かせて飛んでいたが、やがて着地した。
「我が名はヘルクリウス Herculius ! トーデス・マシーネたちの指揮官なり。アンシャル・シベルスクよ、我が敵として不足はない! いざ尋常に、勝負せよ!」
「人形たちのボスか。いいだろう。このアンシャル・シベルスク、おまえと勝負しよう!」
ヘルクリウスの頭部の角が放電した。ヘルクリウスの頭部に雷が集中した。
「くらえい!」
ヘルクリウスは角から雷の刃を形成すると、一気にアンシャルに接近して雷の刃で斬りかかった。
ヘルクリウスの技「稲妻刃」である。
アンシャルは光明の力を長剣に収束すると、ヘルクリウスの刃に撃ってかかった。稲妻刃と光明剣がぶつかり合う。
「これならどうだ!」
ヘルクリウスは腹部についているビーム砲をアンシャルに向けた。これは拡散ビーム砲で、広範囲を一気に攻撃できる武器だった。ビームが拡散して発射された。
「甘い!」
アンシャルはその場にとどまり、前面に魔法障壁を展開した。拡散ビームが当たるものの、ビームの方向はねじ曲げられた。そのほかのビームは誰にも当たらずに飛んで行った。
「むう…… やるな…… さすがは聖堂騎士団長なだけはある! ならばこれをくらえい!」
ヘルクリウスは六本のうでを展開し、長く伸ばすと、手からレーザーを発射した。
ヘルクリウスの手はレーザーガンを内蔵していた。六つのレーザーが同時に照射された。
アンシャルはそれを光明剣で防いだ。なおもヘルクリウスは発射角度や腕の長さを変えてレーザーガンを撃ってきた。
アンシャルは光明剣を振るい、レーザーをことごとく弾き飛ばした。むなしくレーザーがはじかれて反射されていく。ヘルクリウスは両腕の展開を解除すると、勢いよく突進してきた。
「おっと!」
それをアンシャルは器用に、滑らかによける。
ヘルクリウスの重量は相当なもので、突進の直撃を受けたら骨まで砕かれるだろう。
ヘルクリウスは再度宙を浮いて特攻をかけてきた。
「その攻撃は直線的すぎる。しかも単純そのものだ。その攻撃は私には届かないぞ?」
アンシャルは発言通りヘルクリウスの特攻をかわした。ヘルクリウスが急ブレーキをかけて反転する。
「どうやらそうらしいな。だが、我が兵器はこれだけではない! 見るがいい!」
ヘルクリウスの角先に雷の魔力が集中した。雷は周囲に雷電を引き起こし、放電した。
ヘルクリウスの「サンダーボルト」である。
アンシャルは風をいくつもの層に形成して、風のバリアを作り出した。サンダーボルトはかくしてアンシャルに防がれた。ヘルクリウスは再びレーザーガンを出そうとした。
「そこまでだ!」
アンシャルは風の刃をヘルクリウスの片側の腕に放った。
ヘルクリウスの腕は三本とも風の刃によって切断された。
「何!?」
「これならどうだ!」
アンシャルはヘルクリウスに接近すると、残り三本の腕を光明剣で斬り落とした。
「くっ!? こんなバカな!? だが我は負けぬ! 引かぬ! かえりみぬ!」
ヘルクリウスはくるりと回転すると、頭部の角から稲妻刃を出した。アンシャルは光明剣で迎撃する。
「はああああああ!」
「なっ、なんだと!?」
ヘルクリウスは驚愕した。アンシャルの光明剣が稲妻の刃を消失させた。
「ほう…… しゃべれるだけでなく、感情もあるのだな。だが、これまでだ!」
「バ、バカな……」
アンシャルは全力の光明剣でヘルクリウスの腹部を貫いた。光の刃がヘルクリウスの体から漏れる。
「ぐっ…… 動力炉をやられたか…… まさか、この我が敗北するとは…… アルテミドラ様! お許しを!」
そう言うとヘルクリウスは爆発の兆しを見せた。それに気づいたアンシャルは光明剣を解除して、後方に下がった。その後、ヘルクリウスは宙に浮いたまま爆破、四散した。
「ふう、どうやら倒せたようだな。だが、まだ多数のマシーネが残っている。まだまだ戦いはこれからだ」
セリオンはワープゲートの前まで、塔内の階段を登っていた。
「これがワープゲートか…… 黒い渦のようだ。色が禍々しい。これがアルテミドラ宮への入口なんだな。じゃあ、行くか!」
セリオンは胸に勇気を宿すと、黒いワープゲートに手で触れた。
「まさか、あのヘルクリウスが敗れるとはな。ヴァナディース側がここまでやるとは思っていなかった」
「!? 誰だ?」
市街地に声がこだました。アンシャルたちは虚空を見つめた。
「私はヒュオン。闇の神官ヒュオンだ」
ヒュオンが宙から現れた。白い衣に、青いマントをつけている。
「あのヘルクリウスを倒したのだ。おまえはさすがだと言っておこうか」
「おまえもアルテミドラの手の者か?」
アンシャルが尋ねた。
「その通り。この私はアルテミドラ様にお仕えしている。風のアンシャルよ」
「ちょっと、どいてくれ!」
そこに騎士たちをかき分けて侵入してくる者がいた。
「アンシャル団長は…… いた! アンシャル団長! アリオン、ただいま帰還しました!」
「アリオン!」
そこにアリオンがやってきた。
「ほう…… おまえはクサンドラにいた者だな」
「『アリオン』だ。名前くらい覚えろ!」
「アリオン…… よく帰ってきてくれたな。おまえは重要な戦力だ。私はうれしいよ。それはともかく、奴とは知り合いか?」
「はい。あいつはクサンドラで大悪魔を召喚しました」
「フフフ…… ヘルクリウスも敗れたのだ。それでは、この私自ら戦わなくてはならないな」
「アンシャル団長! 俺に戦わせてください!」
「アリオン?」
アリオンはアンシャルに頼み込んだ。
「アンシャル団長も消耗しているでしょう? 俺ならぴんぴんしてますよ。俺はあいつと戦えます。いや、戦わせてください! お願いします!」
「…… わかった。おまえの言う通り、私は消耗している。あいつの相手は頼んだぞ!」
アンシャルはしばらく逡巡したあとに、アリオンにヒュオンとの戦いを任せた。
「フッ、愚かな。青き狼ならともかく、おまえのような青二才にこの私がおくれをとるとでも思っているのか」
ヒュオンはアリオンの無思慮をあざ笑った。
「あーあー! 勝手に言ってろ! 俺をザコ扱いすると、痛い目をみることになるぜ?」
「いいだろう。風のアンシャルの前に、おまえを葬ってくれる」
ヒュオンは地上に着地すると、手に魔力を集めた。優雅な動作だった。
「私が得意とするのは氷の魔法だ。くらうがいい。氷結槍!」
ヒュオンが右手から、氷の槍を出した。氷の槍は直線状にアリオンに飛んでいく。
「そんなもの! 紅蓮剣!」
アリオンは紅蓮に燃える刃を出した。アリオンは氷結槍に斬りつけて氷を消滅させた。
「はああああああ! 火炎刃!」
アリオンは横に刀を振るい、火炎の刃をヒュオンに向けて飛ばした。
「フッ」
ヒュオンは笑った。ヒュオンは瞬間移動でアリオンの炎をかわした。
「氷結弾」
アリオンの全周囲に氷結した氷の塊がいくつも現れた。それらは先がとっていた。氷結弾はアリオンに全周囲から襲い掛かった。
アリオンはダッシュすると氷結弾の狙いからそれた。そしてそのままヒュオンに刀で斬りつける。
ヒュオンはバリアを出して、アリオンの斬撃を受け止めた。
ヒュオンは左手でバリアを出しつつ、右手から氷結槍をだした。アリオンはジャンプしてそれをかわした。そしてアリオンは下降中に紅蓮剣でバリアに斬りかかる。紅蓮の炎がヒュオンのバリアを襲った。
「むっ?」
ヒュオンのバリアにひびが入った。アリオンはさらに紅蓮の炎を出して、さらに力を込めた。
ヒュオンは受け止めきれずに、浮遊して後退した。
「まさか、私のバリアが破られるとはな……」
「ほらな。言っただろ? 俺をザコ扱いするなって」
アリオンは不敵な表情を見せた。
「ならば私もおまえにふさわしい力で、相手をしよう。多連・氷結槍!」
ヒュオンがいくつもの氷の槍を作り出した。それらはアリオンを貫くべく宙に浮いていた。
「死ぬがいい」
ヒュオンは冷たく言い放った。ヒュオンは氷の槍を放った。アリオンめがけてすべての氷結槍が突撃する。しかし……
「紅蓮煉獄斬!」
アリオンは膨大な炎を前面に出した。
紅蓮の炎は多連・氷結槍をすべて焼き、消滅させた。アリオンはすべての氷結槍を迎撃した。
「そんなんじゃ、俺のところには届かないぜ!」
「フッ、甘いな」
「!?」
ヒュオンはアリオンの足元から氷結槍を出現させた。アリオンはバックステップでその攻撃をかわす。
「くっ、やる!」
「私の氷の魔力を見せてやろう」
ヒュオンに氷の魔力が集中した。
「? なんだ?」
「冷凍光線!」
扇状に冷たい光線の柱が広がっていく。アリオンはそれらのあいだを抜けていくようによけた。
さらにヒュオンは上方から冷凍光線を降り注がせた。アリオンは紅蓮剣を上へと上げ冷凍光線をしのいだ。
「氷縛!」
「!?」
アリオンはとっさにその場からしりぞいた。アリオンのいた位置に氷の塊ができた。
ヒュオンは執拗に氷縛を放ってくる。アリオンはそれをくらってしまった。
下半身が氷の塊に覆われた。
「フッ、くらうがいい。氷結弾!」
氷結弾がアリオンの周囲に出現した。いっせいに氷結弾はアリオンに襲い掛かった。
「炎柱!」
アリオンは自身から炎の柱を噴き上げた。紅蓮の炎が燃え盛る。
「なんだと!?」
ヒュオンは驚愕した。アリオンの炎柱は氷結弾をすべて燃やし尽くし、氷縛まで消滅させた。
「へへーん! 残念でした! 俺はあの程度じゃ倒せないぜ!」
「ほう、ならば私も全力を出すとしよう。多連・氷結槍!」
ヒュオンは自身の上方に氷の槍をいくつも形成した。氷の槍が斜めにアリオンめがけて発射された。
「そんなもの! 紅蓮一刀斬!」
アリオンは刀を抜刀のスタイルに構えた。迫りくる氷の槍を一気に一閃で消滅させた。
ヒュオンはアリオンの真上から氷結槍をいくつも出現させた。アリオンはダッシュで逃れる。
「ならばこれはどうだ? 氷雪山!」
ヒュオンは自身の上方に氷の山を出現させた。氷の山はアリオンに向けて飛ばされた。
アリオンは紅蓮の炎を燃え盛らせると、氷の山を一刀のもとに斬り裂いた。
「つららの舞!」
無数のつららがアリオンに襲い掛かる。これはヒュオンの奥の技であった。アリオンは巧みなステップで回避する。しかし、ヒュオンの狙いは執拗を極めた。
ヒュオンはつららの発射を早めたり遅らせたりしてアリオンを悩ませた。
「フフフ…… いつまでかわせるかな? だが、この戦いもこれで終わりだ! 氷結花!」
アリオンは氷の花に巻き込まれた。氷の花は周囲に冷気を放っていた。
「フフフ…… どうやら終わったようだな」
「ああ、あんたがな!」
「何!?」
アリオンが氷結花の中から現れ、ヒュオンに向かって突進した。アリオンは刀で、ヒュオンを貫いた。
「ぐっ、がは…… バカな…… なぜだ?」
「紅蓮の炎で身を守り、氷の花に穴をあけた。それだけさ」
アリオンはヒュオンから刀を引き抜いた。
「俺の勝ちだ」
「まさか、おまえなどにこの私が倒されるとは……」
そういうとヒュオンは倒れた。
セリオンはワープゲートに触れた後、空中に浮かぶ宮殿に降り立った。
「ここがアルテミドラ宮か…… 空中に浮遊しているのか」
セリオンの立っている位置からは雲が下にあふれていた。
セリオンは宮殿の大通りの上にいた。アルテミドラ宮は中央にアルテミドラがいる玉座があった。
太陽の光が宮殿全体を包み込んでいた。セリオンは中央の大通りを中心に向けて歩いた。
そこは大きな扉のある建物だった。突如、黒い闇の槍がいくつもセリオンに向かって飛んできた。
これは多連・闇黒槍である。
「光輝刃!」
セリオンは大剣を光で輝かせると、闇黒槍を次々と斬りはらった。
「今のはあいさつ代わりだ、セリオン・シベルスクよ」
扉の前にはシュヴァルツがいた。シュヴァルツは黒い長剣を前にかざしていた。
「今の攻撃はおまえか、シュヴァルツ!」
セリオンは大剣を構えた。
「いかにも。もっとも、いまのでおまえを倒せるとは思っていなかったがな。地上では我らの軍がヴァナディース側を圧倒しているようだ。とはいえ、ヴァナディース側もしぶとい。いまだ、大統領府をはじめとする重要拠点を制圧できていない。だが、それもあとわずかにすぎん。トーデス・マシーネの大軍はヴァナディース側を苦戦させている。いずれ我らが優勢となるにちがいない」
「そのまえに、俺がアルテミドラを倒す。それですべて終わりだ」
「フン、それはどうかな。この私がここにいる限り、きさまはアルテミドラ様のもとに行くことはできない」
「望むところだ。ようやくこうしておまえと戦えるというわけだ」
その刹那、シュヴァルツの姿が消えた。
シュヴァルツは一瞬にして消えてセリオンの前に現れた。セリオンは大剣の刃を前に出した。
甲高い金属音が鳴り響いた。
「ほう…… 我が疾風突きを防ぐとはな。さすが、セリオン・シベルスク、青き狼しにて英雄よ」
「そんなもの俺には通じない!」
セリオンは守りの構えを解き、大剣を横に振るった。シュヴァルツはそれを長剣を縦にして防いだ。
セリオンは大剣で上から下へと斬りつけた。シュヴァルツは長剣を横にしてセリオンの攻撃を防いだ。
「その程度か? さすがに大剣だけあって重さはあるが、それだけではこの私にダメージを与えることはできんぞ」
今度はシュヴァルツが攻めてきた。セリオンの大剣を受け流し、セリオンに斜め下から上へと斬撃を繰り出した。セリオンは大剣を横にしてガードした。
「私の技を見せてやろう」
するとシュヴァルツの剣に氷の粒子が集まった。
「? なんだ?」
「くらうがいい、我が技を! 氷霧剣!」
シュヴァルツは氷の粒子をまとう斬撃を放った。セリオンはとっさに大剣で防いだ。
シュヴァルツはなお斬りつけてくる。セリオンはシュヴァルツの氷霧剣を受けて、体の動きが鈍くなるのを感じた。氷の粒子がセリオンの体温を奪うためだ。
「くっ!?」
セリオンはこのままでは不利になると思い、後退した。
「逃げたか…… だがしょせんは無駄な悪あがきだ。私の氷霧剣からは逃れられん!」
再びシュヴァルツがセリオンに氷霧剣で迫った。セリオンは光子斬を放った。
「むう……!?」
セリオンの光子斬はシュヴァルツの氷の粒子を打ち破った。
「私の氷霧剣を破るとはな。だが、これだけが私の技だとは思うな!」
シュヴァルツは長剣を構えた。今度はシュヴァルツの長剣から炎が現れた。
「これも我が技、魔炎剣だ」
シュヴァルツは闇の炎を長剣にまとわせた。そしてシュヴァルツはセリオンに斬りかかった。
「氷星剣!」
セリオンは氷の輝く剣を出した。氷星剣と魔炎剣が火花を散らした。剣撃がかわされるほど、スパークが巻き起こった。
威力は双方、互角だった。二人は技の威力に互いに支え切れず、吹き飛ばされてダウンした。
「くう!?」
「ぐうう!?」
二人は共に剣を支えにして立ち上がった。シュヴァルツはとっさに大きくジャンプした。彼は空中から強力な闇の斬撃をセリオンに対して放った。
「闇黒斧!」
セリオンは光輝刃で迎撃を試みた。
「ぐっ!?」
セリオンは闇黒斧の強さに押された。このままではまずいと思ったセリオンはバックステップで後退した。
「逃がさん! 真空円月斬!」
シュヴァルツは円月形の斬撃をセリオンに向けて飛ばしてきた。合計四発で、四発目は一番大きかった。セリオンは蒼気を放出した。蒼気の刃で、セリオンは円月の斬撃を斬り裂いた。
「真空円月斬まで破るか。だが、これは防げまい! 魔炎噴出剣!」
シュヴァルツは長剣を下に向きを変えて持ち、噴出しながら迫る闇の炎を出した。
セリオンは氷星剣で迎撃しようとした。だが技の威力はシュヴァルツのほうが上だった。
セリオンは力負けして、後ろに吹き飛ばされた。セリオンは大剣を手放して倒れた。通りに横たわる。
「……ではとどめを刺してやろう」
シュヴァルツが鎧のきしむ音をさせながら、セリオンに近づいた。
シュヴァルツはセリオンのもとに近づくと、長剣でセリオンの心臓を一突きしようとした。
「死ぬがいい」
その時、セリオンの体が反応した。セリオンは足から起き上がり、蹴りをシュヴァルツに叩き込んだ。
「むう……!?」
さらに宙で回転すると、蒼気をまとったこぶしでシュヴァルツを打ち付けた。さらにセリオンは蒼気を飛ばしてダメージを与えようとする。シュヴァルツは後退した。その隙にセリオンは大剣を拾った。
「そう簡単に殺されると思うなよ」
「おのれ…… 格闘技か…… 潔く死んでいればいいものを。だが、我が技の前には無力よ! 死ね!魔炎噴出剣!」
「翔破斬!」
セリオンは蒼気の波を放った。翔破斬がシュヴァルツの魔炎噴出剣と衝突する。威力は互角だった。
そのあいだセリオンは接近した。シュヴァルツは真空円月斬を一発だけ放った。セリオンは蒼気の刃を出した。セリオンの攻撃は、真空円月斬を斬り裂き、さらにシュヴァルツの体まで斬った。
「なっ、なに!? ぐはっ!」
シュヴァルツはうつぶせに倒れた。
「私がやられるとは…… こんな…… こんなことが…… アルテミドラ様……」
セリオンは大きな扉を開けて中に入った。そこは玉座の間だった。
玉座にはアルテミドラが座し、ほおづえをついていた。
「ようこそ、青き狼よ。私のアルテミドラ宮へ。私はおまえを歓迎しよう」
セリオンが玉座の間の中に入ると、大きな重々しい扉は勝手に閉じられた。
「アルテミドラ…… 今すぐにヴァナディース侵攻をやめろ」
「フフフ…… それは困る。私はアルテミドラ。暗黒の大魔女アルテミドラだ。光の都フライヤは滅ぶのだ。このアルテミドラの手によってな。フフフ、フハハハハ!」
「ならば、おまえにはここで死んでもらう。そして俺はフライヤを救出する」
「我らが戦うことは宿命なのだ。光と闇は相反する。それこそが戦いの理。これは神がそう定めたからで、私たちはその理に従っているにすぎない。おまえは光、私は闇に属し、この世界エーリュシオンで戦いあう。それが宿命なのだ」
アルテミドラは玉座から立ち上がった。アルテミドラは角のように曲がった左右の赤い前髪に、深紅のイブニングドレスを着ていた。イブニングドレスからはアルテミドラの魅惑的な脚がさらされていた。
「さあ、来るがいい、英雄よ。私はおまえとの再会を楽しみにしていた。そして今度こそ闇が勝つのだ」
アルテミドラは右手に炎の弾を宿した。
「まずは私の得意な炎の魔法を見せることにしよう」
アルテミドラは炎の弾を放った。火炎弾である。
「氷結刃!」
セリオンは氷の刃を形成した。飛来する火炎弾を、セリオンは氷の刃で斬りはらった。
「フフフ! 多弾・火炎弾!」
多数の火炎弾がセリオンに集中した。セリオンは冷静にそれらを氷結刃で斬り処理していく。
「くっ!」
セリオンは苦難の表情を浮かべた。アルテミドラの火炎弾は重かった。一発一発が力強い。魔法の威力はその人の魔力に左右される。アルテミドラの魔力は当然ながら、シュヴァルツやヒュオン、シェヘラツァーデより上だった。
「これはどうかな? 双連・火炎槍」
二つの火炎槍が同時にセリオンに迫る。セリオンはタイミングを見計らい、二つの火炎槍を氷結刃で斬り裂いた。
「まだまだ、これからだ。多連・火炎槍」
アルテミドラは自身の上方に多くの火炎槍を形成した。そして炎の槍を一発ずつセリオンに向けて放った。セリオンは自身に闘志を吹き込んだ。セリオンは炎の槍を一本ずつ氷の刃で斬り裂いた。
アルテミドラはセリオンの上方に火炎槍を出現させた。セリオンの上方から、炎の槍が降り注ぐ。セリオンはダッシュしてこの攻撃をかわした。
その隙にセリオンはアルテミドラに大剣による打撃を試みる。アルテミドラはセリオンの攻撃をバリアで防いだ。
「フフフ、そんなもの、この私には通じんぞ? 蛇炎!」
アルテミドラを取り巻くように蛇の形をした炎が形成された。蛇型の炎はセリオンにかみつくべく、襲いかかってきた。セリオンは氷結刃で蛇の炎の頭を斬り落とした。
アルテミドラが再び多連・火炎槍を形成した。いっせいに炎の槍がセリオンに襲い掛かる。セリオンは後方に跳びのいて炎の槍をかわした。炎の槍は床に当たると小さく爆発した。
「火炎波」
アルテミドラは炎の波を放った。炎の波は直線状にセリオンに向かっていった。セリオンはそれに氷結刃の刃を当て打ち消した。
「炎爆」
セリオンの前に炎の球が形成された。そこに炎の魔力が集まる。
「これは…… まずい!」
セリオンは危険を悟り、炎の球に氷結刃で斬りかかった。炎の球は光って爆発した。
炎の爆発がセリオンを襲った。セリオンは扉まで吹き飛ばされた。
「ぐっ!?」
セリオンはぐに立ち上がって大剣を構えた。
「ほう…… あの爆発でそれだけ軽いダメージとはな。どうやら氷の刃による攻撃も無駄ではなかったわけだ。フフフフ……」
「どうやら前に戦った時と比べて、おまえは魔力を上げたようだな」
「フフフ、魔力だけではないぞ? 今の私にはこれがある」
そういうとアルテミドラは右手に緋色の炎を出した。
「それは?」
「フフフ…… これは緋炎。緋色の炎だ。これも私の新しい力だ。くらうがいい!」
アルテミドラは緋炎を大きな鳥として形作った。
「緋炎鳥!」
緋炎鳥は翼を広げてセリオンに襲い掛かった。セリオンは氷結刃で迎え撃ったものの、氷の刃が砕けてしまった。
「くっ!?」
「フフフ、そのまま燃えるがいい!」
セリオンは蒼気を発した。セリオンは蒼気の刃を緋炎鳥に振り下ろした。蒼気の刃で緋炎鳥は斬り裂かれた。斬り裂かれた緋炎鳥は爆発を起こして消滅した。
「緋炎槍」
アルテミドラは緋炎の槍を放った。セリオンは蒼気の刃でガードした。
「フフフ…… やるな。意外としぶとい。だが、これはどうかな? 緋炎槍・連爪!」
五本の緋炎槍が爪のようにセリオンに襲い掛かる。セリオンは追いつめられた。
「これで、終わりだ!」
アルテミドラが宣言する。
「氷星剣!」
セリオンはきらめく氷の刃を出した。セリオンの氷星剣が五本の緋炎槍を破った。
「何!?」
アルテミドラは大きく目を見開いた。確実にセリオンを捉えたとアルテミドラは思ったのだ。
「おのれ! ならばこれはどうだ! 大緋炎鳥!」
巨大な緋炎鳥をアルテミドラは撃ちだした。セリオンは鋭い目つきで見つめると、氷星剣で大緋炎鳥を斬り裂いた。アルテミドラは信じられないというような顔をした。
セリオンはアルテミドラに接近し、氷星剣で斬りつけた。
アルテミドラはバリアを出して、氷星剣をガードした。バリアにひびが入る。
「くっ、これほどとは……」
バリアはセリオンの氷星剣によって破られた。
「おまえの魔法は破ったぞ? これ以上何か見せ物はあるのか?」
セリオンは大剣をアルテミドラに突き付けた。
「フフッ…… まさかここまでやるとは思わなかった。だが、まだ終わりではない! フィンスター・シュトローム Finsterstrom !」
突如、闇の気流が巻き起こった。セリオンはとっさに後退し、アルテミドラと距離を取った。
闇の気流はアルテミドラを中心に渦巻いていた。
「この攻撃をくらうがいい!」
アルテミドラは闇の気流を竜巻の形に変化させ、セリオンに向けて放った。セリオンは大剣に光の力を宿らせた。光の粒子がセリオンの大剣に集まる。
「光子斬!」
光の粒子の斬撃は、闇の竜巻を斬りはらった。
アルテミドラは両手で自信を抱きしめると、その後両手を開いた。
アルテミドラの姿が闇に包まれる。
「? なんだ?」
「フハハハハハ! これも私の新たな力だ! これは妖蝶形態だ!」
アルテミドラは上半身は人、下半身はチョウ、背中に紫の鮮やかな羽を持つ姿に変身した。
「フフフ! これが闇の力よ! 英雄よ! 闇の力を思い知るがよい!」
闇の気流がセリオンを襲う。間全体が闇の気流であふれかえった。
セリオンは光輝刃を出して、闇の気流を迎え撃った。
「闇爆!」
闇の爆発がセリオンを襲う。セリオンはとっさに爆発の範囲からよけた。アルテミドラは闇爆を連発してきた。セリオンは光輝刃で闇爆を打ち破った。
「闇力!」
アルテミドラの闇力。紫の闇がセリオンを包み込む。しかし、セリオンは光輝刃に一層力を込めて、この攻撃に耐えた。セリオンは左手に光の槍を形成した。
「光投槍!」
セリオンは光の槍をアルテミドラに投げつけた。
「フン! そんなもの!」
アルテミドラは瞬間移動でかわした。
アルテミドラの多連・闇黒槍。闇の槍がいくつもセリオンに迫る。
「死ぬがいい、英雄よ!」
「俺はヴァナディースの希望だ! 俺はやられるわけにはいかない!」
セリオンは襲来する闇の槍を光輝刃で斬りはらった。
「闇爆弾!」
アルテミドラは爆発する闇の弾を撃ちだした。セリオンは爆発に呑まれた。
「フッハハハハハハ! これが闇の力だ! どうやら今度こそ闇の勝利に終わった……!?」
その瞬間、セリオンが爆風の中から飛び出てきた。セリオンは光輝刃でアルテミドラを斬りつけた。
斬られたアルテミドラから赤い血が漏れる。アルテミドラの周囲に闇の渦が集中して巻き起こった。
「どうだ、この攻撃は? 確かに手ごたえはあった。だが、闇の気流は収まらない。いや、一層禍々しくなっている…… これはいったい……!?」
突如玉座の間の壁が変形した。周囲がぐにゃりと歪む。
「これは…… 亜空間が変形しているのか?」
周囲の風景は周り一面黒い平野となった。セリオンの前に巨大な存在が現れた。
ドーム状の体に、大きな顔がついた姿。その顔はアルテミドラだった。
「フッハハハハハハ! これが私の真の姿だ! さあ、地にひれふして祈るがいい! この私の慈悲をこうてみよ! そしておまえは死ぬのだ!」
「くっ! これが真のアルテミドラか!」
アルテミドラ第三形態である。炎の球が形成された。
「!? 炎爆か?」
セリオンは氷星剣で炎の爆発をガードした。セリオンの周囲を炎が取り囲んだ。セリオンに逃げ場はない。やがて中心に炎がメラメラと燃え上がった。
「甘い!」
セリオンは中心に現れた炎を氷星剣で斬りはらった。
「多連・緋炎槍!」
多くの緋炎槍がセリオンに迫った。セリオンは氷星剣ですべて斬りはらった。
「フィンスター・ドライ・エック Finsterdreieck !」
アルテミドラの前面に闇の三角形が現れた。三角形の中に、闇の魔力が集中する。
三角形から強烈な砲撃が行われた。セリオンは光輝刃を出して迎え撃ったものの、圧倒的な闇の力の前に、膝をついた。
「くっ!?」
「ハハハハハ! どうだ! これが闇の力だ! 圧倒的だ! さあ、英雄よ、このまま闇に呑まれて死ぬがいい!」
「まだ終わっていない!」
セリオンは立ち上がった。
「愚かな! そのまま死ねばいいものを!」
アルテミドラの周囲に闇の気流が生じた。今度は二つの闇の竜巻がセリオンに迫った。セリオンは光子斬で闇の竜巻を斬り裂いた。
「魔瘴雨!」
セリオンの上空から瘴気の矢が降り注いだ。セリオンは光輝刃を全開してこの攻撃に耐える。
さらに大きな闇の流星が落ちてきて、セリオンを吞み込んだ。床一面に大きな爆発が起こった。
「フッフフフフフ! フハハハハハハ! 死ぬがよい、英雄よ! これがおまえの最期だ! …… !?」
セリオンはやられたかに思われた。だが違った。セリオンは大きくジャンプしていた。
そして、アルテミドラの額を狙って、光輝刃を突き刺した。
「ぎいやああああああああああ!?」
セリオンは着地した。周囲の風景がぐにゃぐにゃと歪む。その後、空間が安定すると、人の姿と化したアルテミドラが倒れていた。
「ぐっ…… バカな…… だがこのままでは終わらん! ティタニア Titania !」
「!? なんだ!?」
その時轟音が起こった。何か、巨大なものが移動した音だった。
「フフフ…… 残念だったな。この私を倒しても、トーデス・マシーネは止められん。私には総指揮権はない。それはティタニアが持っている。闇黒界エレボロス Ereboros …… そこにティタニアは移動した。そこからヴァナディースを破壊するためにな。地獄から、ヴァナディースが破壊される様を見ているぞ? フハハハハ!」
そう言うと、アルテミドラは赤い粒子と化して消えた。
「くっ!? まずいな。すぐにティタニアを追わないと…… ヴァナディースが危ない!」
セリオンは扉を開けて外へ出た。そこには黒いワープゲートがあった。
「この先に闇黒界エレボロスがあるのか…… よし! 行くぞ!」
「くっ…… まったく敵の数が多い…… なんて数の人形どもだ……」
アンシャルが言った。アンシャルたちは現在、大聖堂を守る最終防衛ラインまで後退していた。
これまでの戦闘で、騎士たちにも多くの負傷者が出ていて、大聖堂内に運びこまれていた。アンシャルたちは丘への登り道で、道が両側から細間っている通りに布陣していた。
「アンシャル団長、ここを最終防衛ラインに定めたのは正解でしたね。見てください。敵兵は細い道につまっています。まるでボトルネックですね。ここなら数が多いほうが不利になりますよ。どうやらマシーネはそれがわからないようですし、今しばらくは戦えますよ」
とアリオンが言った。
「アリオン、おまえが健在で頼りがいがあるな。おまえの言う通りだ。敵のレーザーガンも丘となっている地形に狙いがよく定まらないようだ。だが、我々にはもう後がない。ここが突破されたら、敵が大聖堂になだれ込んでくるだろう。何としてもここでくい止めるぞ」
アンシャルは長剣を構えた。
「俺は信じていますよ」
「何をだ?」
「セリオンを、ですよ」
「おまえはセリオンを信じているのか?」
「はい、そうです。セリオンならやってくれますよ。だから、俺は戦えます!」
「そうだな。私もセリオンを信じている。あいつなら必ずやってくれる、そう思わせるんだ、セリオンは。戦友兄弟諸君! セリオンがやってくれるまでの辛抱だ! セリオンなら絶対に敵の元凶を止めてくれる! それを信じて戦おうではないか! 私たちはまだ戦える!」
「おおおおおおおおおお!!」
天にも届きそうな声がこだました。
セリオはン闇黒界エレボロスに侵入した。そこは中心部には明かりがあり、周辺は暗い闇で閉ざされていた。セリオンの前に、一体の存在がいた。
「なんだ、こいつは? まるで蝶のようだ。これがティタニア?」
ティタニアは白い体に紫の羽を持っていた。ティタニアはセリオンを眺めた。どうやら敵と認識されたらしい。ティタニアは頭の触覚から暗い球体を作り出した。それがセリオンに向かう。
「そんなもの!」
セリオンは光輝刃で暗い球体を斬り裂いた。ティタニアの闇の息。黒い闇の息が吹きかけられる。
セリオンは光輝刃で迎撃しようとしたが、それができずにくらってしまった。
「うおああ!?」
セリオンは倒れた。ティタニアの羽に闇のエネルギーが集中された。
「くっ!? 何をする気だ?」
ティタニアの口から長大な砲身が現れた。エレボロスの一空間が破れた。その先にはヴァナディースがあった。
「!? あいつ、このままヴァナディースを砲撃するつもりか!? そうはさせない!」
セリオンはすぐに起き上がると、雷光を大剣に収束した。ティタニアは足で、体勢を固定し、「闇黒波動砲」を展開した。セリオンはティタニアの頭部に乗り込み、必殺の一撃「雷光剣」を放った。
それでもティタニアの体勢は変わらなかった。一秒、一秒が破滅へのカウントダウンになる。
「くっ! これならどうだ! 蒼気凄晶斬!!」
セリオンは最強の必殺技を繰り出した。収束された刃がティタニアの頭部を斬り裂いた。
「やったか!?」
ティタニアは小爆発を起こし、崩壊した。セリオンはティタニアから離れた。ティタニアは最後に大爆発を起こし、消え去った。
一方、アンシャルたちはおびただしいトーデス・マシーネと戦っていた。特にアンシャルとアリオンの活躍は獅子奮迅だった。
「風王衝破!」
「紅蓮一刀斬!」
二人の大技がトーデス・マシーネの群れに炸裂する。しかし、敵の数は一向に減る気配がない。
と、その時。
「ん? マシーネの様子が変だ? 何かあったのか?」
とたんにすべてのトーデス・マシーネの機能が停止し、自爆した。その光景は騎士たちの目を注目させた。
「これは…… セリオンがやったのか?」
「そうですよ、アンシャル団長! セリオンがやってくれたんです! やっぱりセリオンは英雄だ! セリオンは希望だ!」
「どうやら、そのようだな。戦友諸君! 我らの勝利だ!!」
「うおおおおおおおおお!!」
騎士たちは叫び声を上げた。
エスカローネは一人、大聖堂の前で待っていた。エスカローネは愛する人を、セリオンを待っていたのであった。時間は朝。暁が登り、大地を優しく照らし出す。気温は少し冷たい。
「エスカローネ!」
「! セリオン!」
そこに待っているセリオンが現れた。エスカローネとセリオンは互いに駆け寄り、抱きしめあった。
「もう! 本当に今回は心配したのよ? セリオンが本当に帰ってくるのか、私は不安だったの」
「それで、こんな所で待っていたのか。ごめんな、心配かけさせて……」
セリオンはぎゅっとエスカローネを抱きしめた。
「今回の戦いは今までにないほど厳しかった。敵は強大だったよ」
「でも、セリオンが勝つって、私は信じていたわ」
「ありがとう、エスカローネ。それと、ほかのみんなも安心させてあげないとな」
「その通りだ。みんな、おまえが帰ってくるのを待っていたんだぞ?」
そこに、アンシャルの姿があった。
「アンシャル!」
「俺もいるぜ!」
「アリオン!」
「私たちもいるわよ、セリオン。おかえりなさい」
「母さん、シエル、ノエル、アイーダ、ダリア、クリスティーネ」
「みんな、お兄ちゃんが帰ってくるのを待っていたのよ」
「お兄ちゃん、お帰り!」
とシエル、ノエル。
「私もいることを忘れるな」
「スルト……」
「今夜はパーティーがある。主賓はもちろんおまえだ。本来なら今すぐ、おまえを奪いたいのだが、それはエスカローネに譲るとしよう」
「スルト、ありがとう」
「フフフ…… では夜にまた会おう」
「みんな行っちゃったわね」
スルトたちは去っていった。
「みんな、遠慮してくれたんだよ」
「そうね」
エスカローネはほおを赤らめた。
「まず、俺が最初にやりたいことは、エスカローネを愛したい」
「私も、セリオンから愛されたい」
「エスカローネ……」
「セリオン……」
二人は朝焼けのなか、キスを交わした。