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「神隠し?」


 真面目だとは思っていたが、いつも以上に神妙な顔つきで受付嬢はそう切り出した。

 生憎、そんな言葉に聞き覚えはない。日常で出てくるような単語でもあるまいし、もし聞いていたら忘れるなんてことは無いだろう。

 いや、もしかしたらリアあたりが喋っていたかもしれないが、なにぶんあっちこっちに話題がとぶので一つ一つ詳細まできちんと聞いてはいない。少なくとも記憶にはないから聞いてないとは思うのだけど。


「はい。最近、王都で突然人が行方不明になる事件が起きているのです」


「……誘拐、ということか?」


「人が消えるという点ではたしかにそれに近いかもしれません。ですが、ただの誘拐事件とは明らかに様子が違うのです」


「……?」


 王都の治安は比較的良い方だ。しかし、それでも多くはない頻度で誘拐や殺人なんて事件は起こる。

 だから、人が消えたなんて話を聞かされても「あぁ、ついてないな」程度には思ってもそれ以上何か思うようなことは無い。所詮は他人事。仕事の話の方がよほど重要だ。


 それに、仮にそんな事件が起きているのだとしてもそれは冒険者である俺にとっては預かり知らぬところ。それこそ、エリオラのような国に仕える人間の出番だろう。

 ただ、それなりに長い付き合いなのだから、受付嬢が俺相手に無駄な世間話なんてしないことも知っている。それをふまえて考えるなら、おそらくその事件についての何かを俺に依頼したいということだろう。それならこの話はきちんと聞いておかないといけない。依頼の最中、話をちゃんと聞いておかなくて重要なことを知らなかったじゃ話にならないからな。下手すれば降格されかねない。俺のAランクという評価は依頼に対しての堅実な対応も含めての評価なのだから。


「通常、誘拐事件となれば攫われるのは貴族のご子息やご息女です」


「あぁ。そうだな」


 誘拐事件を起こす奴の目的なんてものは大概が似たり寄ったりだ。何らかの要求を通す。例えば、多額の身代金とか。

 その目的を考えれば要求を叶えられる人間の子供を攫うというのは理にかなってはいるのだろう。もちろん貴族の子供には護衛がつけられていて簡単に攫える訳もないのでそれが頭の良い行いかどうかは知らないが。


「ですが、今回の事件で行方不明となっているのは子供から大人まで年齢も性別もバラバラ、そのうえ貴族や平民の身分も関係なくある日を境にパタリと消えてしまうのです」


「……」


 それはもう行方不明ではなくて殺されているんじゃないだろうか。

 行方不明になっている人間の帰りを待っている者の事を考えれば口に出すのは憚られたが、考えれば考えるほどに行方不明になった人間が今も元気に生きているとは思えなかった。


 普通の誘拐とはたしかに違う。そもそも誘拐なのかどうかも怪しい。どちらかと言えば、通り魔的な悪党が居て、それが自分の行いを隠すために死体を隠しているなんて話の方がありそうだ。それなら行方不明になっている人間に共通点が無いのも頷ける。だって、通り魔って奴は殺しにやたらこだわりを持つ奴もいるにはいるけど、その多くは殺せれば誰でも良いって変態ばかりだから。


「身代金等の要求がないこと。被害にあっていると思われる者達に関連性がないこと。この二点からこの事件は誘拐ではなく人攫いや通り魔といった方向で見られているようです」


 なるほど。つまりこの受付嬢はそうは思っていないということか。


「わざわざ王都で人攫いか」


「ない話ではありません。貴族のご息女は買い手次第では一生遊んで暮らせるだけの金額にもなりますから」


「とんだ変態もいたものだな」


 有名な話。なんていうほど聞かれた話というわけでもないが、貴族が金を惜しまず貴族の娘の奴隷を買って自分色に染めるなんていう気持ちの悪い噂話は昔からあった。あくまで噂でしかないがどうやら受付嬢は信じているらしい。

 ただ、今回の件は仮にその噂が本当だったとしても、それとはおそらく無関係だろう。


「ですが、人攫いが出ていたとしても他の人たちが攫われた理由がありません」


「そうだな。では、通り魔の犯行ということか」


「いいえ。おそらくですが違います」


 違うらしい。


「今回の事件。被害者たちは一見したところ関連性はないように見えますが、一つ共通点があったのです」


 だったら初めからそう言ってくれれば、なんて言ってしまうのは無粋だろうか。たぶん、受付嬢はこの事件の事を色々調べたのだろう。そうでなければいくらギルドには冒険者からの情報が入りやすいとはいってもここまでのことは知らないはずだ。

 そうなるとどちらかと言えば事件の真相よりもどうして受付嬢がそこまでこの事件に関心を持ったのかということの方が気にかかる。場合によっては迂闊なことは喋れない。


「被害者たちは実力者、もしくは将来を期待されていた人たちばかりでした」


「……」


 眼鏡の奥の目をわずかに細めて受付嬢はそう言った。

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