六
買い物を終えたなら、次はお仕事の時間だ。
「ノワールさん。一週間ぶりですね」
「……依頼は?」
「はい。いくつかノワールさんへの指名依頼が来ていますね」
「そうか。では、それを全て」
冒険者。
子供の小遣い程度の冒険者ライセンス発行量を支払い、依頼をこなして報酬を受け取る仕事。
それに関しては色んな解釈がある。
例えば、国に仕える兵士になれなかった負け犬の成れの果て。
例えば、自由を愛する者の行きつく仕事。
例えば、一獲千金の夢とロマンに溢れた仕事。
まぁ、なんだっていい。
他人の評価なんてどうでもいい。
大事なのは他の仕事につくよりよっぽどこの仕事の方が稼ぎやすいという一点だけだ。
子供二人を育てようと思うとこの仕事以外ではとても賄える気がしなかった。もちろん方法を選ばないならその限りでもないけれど、そんな教育に悪いことはできるはずもない。まともな仕事。その許容ライン限界が冒険者だ。
とはいえ、素性を明かした状態で冒険者になってしまえばライセンスの発行やら冒険者としての質を表すランクの昇級に関して余計な足枷になりかねないので正体不明の仮面の冒険者ノワールという体でやっているのだけど。
「……ノワールさん」
「……どうした?」
「実は、Aランク冒険者であるノワールさんの実力を見込んで一つご相談が」
「……?」
冒険者の質を表すランク。
冒険者と依頼人を仲介する役割を果たすギルドの基準によって定められるそれはそのまま冒険者の強さを意味する。
ランクが高いからと言って受けた依頼の報酬に色がつくなんてことはない。ただ、冒険者にとってランクの昇級というのは非常に名誉なことなのだ。でも、やっぱりランクが高いからといって報酬が増えたりはしない。
だから、名誉なんざいくらあったところで銅貨一枚の価値もないのでどうでもいいと言ってしまえばどうでもいい。
ただこのランク、報酬に直接的な影響を及ぼすことこそないが『指名依頼』という特殊な依頼を受ける可能性に繋がって来る。
指名依頼とは名前の通り冒険者を指名して行う依頼の事だ。通常の依頼と違い冒険者と依頼人を仲介するギルドに対しての別途手数料がかかるうえにそれを受けるかどうかは冒険者次第なので報酬も必然的に高くなりがちである。ちなみに冒険者に登録している者はギルドを介さず勝手に依頼人から依頼を受けることは禁止されているらしい。なんでも破った者には想像も絶するようなペナルティが与えられるとか。
わざわざ余計な手数料を払ってまで冒険者を指名するような依頼なので大概が厳しい依頼にはなるが、その分やっぱり報酬も上がるので特に問題はない。
自分で依頼を精査する必要もなくなるのでランクの高い実力派の冒険者や個性的であったり、将来有望な期待の新人なんかの指名依頼を任される奴らはこぞって誰でも受けられる依頼よりも指名依頼を優先的にこなす。
中には俺みたいに指名依頼だけをこなす奴なんてのも出てくる始末だ。
しょうがないね。だって貰える報酬かなり違うし。
そこらへんはもうそれなりに長い付き合いになる馴染みの受付嬢もよく分かってくれている。
だから、今日もいつものようにたまった指名依頼を消化しようかと考えていたのだけど、何やら様子がおかしかった。
「……ノワールさんは、最近噂になっている『神隠し』の事件を知っていますか?」