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 リアとアルを学校へと送り出す。

 それが終わってもやることはまだまだある。


 例えば買い物。


 昔、他所の世界の人間に召喚された時、その世界には冷蔵庫なんてものがあって食品はよく保存が利くようになっていたけれど、残念ながらこの世界にそんな便利なものはない。

 一応、魔法を利用して普通に放置するよりは長持ちするようにはしているが、それでも冷蔵庫には遠く及ばない。


 だから、結果的にほとんど毎日買い物に行かなくてはならなくなる。

 もちろん俺もその例に漏れることは無い。

 なのだが……


「あー、待て。分かった。俺が悪かったからいったん落ち着け。な?」


「黙れっ! 私は騙されないぞ! 今日こそはお前を捕えてやる!!」


 どうして俺は毎度毎度聖騎士様に剣を向けられなきゃならんのか。


「おいおい、落ち着けよエリオラの嬢ちゃん。いつも言ってるだろ? クロの兄ちゃんはたしかに悪魔だけど悪い悪魔じゃないって」


「いいえ!! 皆さんは騙されているんです!! 悪魔は狡猾で残忍。そんな風に油断しているといつ寝首を掻かれるか分かったものじゃありませんよ!!」


 お世話になっている肉屋。

 そこの店主がエリオラと呼ばれた少女を宥めているが取り付く島もないといった感じだ。

 ほとんど毎日似たようなことになるのでもう慣れた。


「それに私は見てたんですよ!! この悪魔は値踏みするように薄気味悪い笑みを浮かべながら並べられた肉を見てました!!」


「シチューにどの部位の肉を使おうか迷ってただけなんだけど……」


「煩い悪魔!! 今日という今日は見逃しませんよ!!」


 ビシッと指を突きつけてエリオラは俺を睨みつける。

 悪魔という種族はあまり良い印象を持たれない。それは至って当然の話でそれをふまえるとエリオラのこの反応もあるべき反応と言える。


 でも、酷い言いがかりには違いない。

 泣いちゃうぞこんにゃろう。


「エリオラさん。いつも言ってますけど」


「私の名を口にするな! 孕んだらどうしてくれる!?」


「孕むか!!」


 騎士という職業が存在する。詳しいことは興味もないので調べたことは無いが、一般的な兵士よりも優秀な人間がなって国王や国の重鎮などの重要人物の護衛や少数精鋭の任務を任されたりするような職業らしい。

 肉屋の店主曰く、このエリオラという少女は歴代でも最年少で『聖騎士』と呼ばれる騎士のなかでも特殊な能力を持った者しかなれない役職に就いた才女らしいのだが。

 ほんとにこの子才女なのか?公道で孕むとか言っちゃうただ頭が弱いだけのアホの子じゃないのか?


 年は聞いたわけじゃないけどたぶんリアやアルよりも三歳程度上といったところだろう。やだなぁ、リアがこんなんになったらどうしよ。


「わ、私は知ってるんだぞ!! お前達悪魔は見染めた異性相手に言葉を介すだけで孕ませることができるんだ!!」


「悪魔の名誉のためにも言っとくけどそんなことできないから!!」


 悪魔について正しく知っている者は本当に少ない。悪魔やらには比較的人間の中では近い位置に存在するはずの聖騎士様ですらこんな少し考えたら違うって分かりそうな謝った情報を信じてるのだから笑えない。


「嘘を吐くな! 世界一の私の可愛さに見惚れたんだろ!? 正直に言え!」


「リアの方が可愛いわ。殺すぞ」


「……ひっ」


 おっとしまった。ちょっと顔が整ってるだけの金髪女が自分のこと可愛いとか言うせいでむきになってしまった。

 でも、そこは譲れない。なんなら女装したアルの方がお前より可愛いまであるからな?


「クロの兄ちゃん。あんまり女の子を泣かすもんじゃないぜ?」


「泣いてなんかない! ……泣いてないもん!!」


「……ごめん」


「泣いてないって言ってるだろ!!」


「……」


 目元に雫を溜めているその姿を見せられるとさすがに申し訳なくなってくる。だから、謝ったらそれはそれで怒らせた。どうしろってのさ。泣いてないならその液体何だよ。汗か?目から出る汗か?


「お前みたいな名前も碌に知れてない下級悪魔なんかに聖騎士の私が怯えるわけがないだろ! バーカバーカ! なんだクロって。犬か? 犬なのか!? 覚えとけ!」


「……クロはクロだよ。ただのクロだ」


 ほとんど言い逃げ。聞いておいて答えを聞くつもりなんてこれっぽっちもないといった風な様子でエリオラは走ってその場を去っていく。

 だから、それはきっとエリオラには聞こえない。聞こえる必要も別にない。


「……親父さん。シチューにするならどれが一番おススメですか?」


 向き直り、見たところで大した違いなんて分からなくて結局いつも通り店主に肉選びは丸投げした。


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