五十四
「うん。邪魔者は居なくなった。それじゃあ話を戻そうか、クロ」
「話したいことは特にない。お前を殺してリアを取り返す。それから受付嬢に全部教えてやってそれで終わりだ」
「動いたらリアを殺す」
体重をほんの少し前にかけた。すると、これ見よがしにリアを見せてグレイは俺を牽制する様子を見せた。
「……なぜ、すぐにリアを喰わなかった?」
「本当は喰う予定だったんだけどね。もっといい方法をサタンが提案してくれてさ」
取り戻す。リアをグレイが手元に置いていることも問題だが、それ以上の問題がある。
「それよりいいのかい? 聖騎士ちゃん、サタンに喰われちゃうよ?」
「…………」
エリオラが人の形をした黒い靄に掴まれていた。サタンはこの世界では決まった形を取るつもりはないらしい。人間嫌いの奴らしい。
「……? いや、似ているだけか」
俺を見て小さくサタンが声をあげた。気付かれてはいなさそうだ。たぶん死んだことになっているだろうし。
「クロ。取引をしないかい?」
「取引?」
「うん、そうだよ。私の最終目的は神を殺すことなんだけどね、それにはきっと途方もない力を得る必要があると思うんだ」
「だろうな」
「だからさ。私に喰われておくれよ、クロ。大人しく喰われてくれるならリアを見逃してあげてもいい。おまけで聖騎士ちゃんもつける。もちろん契約を結ばせてもらうよ。そうすればクロも安心して私に喰われることができるだろ?」
なるほど。俺を喰えばそれなりの力は手に入る。そのための手段としてリアを使う気か。
「で? どうかな? クロはリアを助けたい。私はクロを食べて強くなりたい。お互いに利のある取引だと思うのだけど」
「……そうだな」
ほんと、どうして俺はこいつがここまでどうしようもなくなっていることに気付けなかったのだろうか。
「お前を殺してリアを取り返す。決定に変更はない」
「……っ!?」
両腕をもいでリアを無理やり引きはがして取り返した。その間、グレイが俺に反応を示すことはなかった。一瞬遅れてグレイから苦痛の悲鳴が発せられる。
「……ルシ……フェル? バカな……お前は死んだはず……」
「久しぶりだな、サタン。グレイの次はお前だ。だから、ちょっと待ってろ」
絞り出すように漏れ出た声。両腕を失いのたうち回るグレイを尻目にその声に応えると久しぶりの再会にも関わらず、サタンを構成する靄がまるで恐怖に震えるように小刻みな動きを見せた。
「ルシフェル……? 最強にして最凶の悪魔……?」
エリオラが目を見開いて俺を見る。面倒な奴に面倒なことを知られた。捨てた名前なんだけどな。子育てするうえでは邪魔でしかない。
「……クロ?」
「ん、目が覚めたか」
「ここ……どこ?」
「どこでもないよ。すぐ帰るからもうちょっと寝てろ」
「……うん。……そうする」
「……」
痛いと叫ぶ三十路やら何やらで目が覚めてしまったのだろう。あまり血は見てほしくないので眠るように促すと素直にそれに従い目を閉じた。いい子だ。
「……クロ」
と思ったら寝てなかった。
「……どうした?」
「……ケーキ食べたい」
「……分かった。帰ったら作るよ」
「チョコがいい」
「はいはい」
言いたいことを言って満足したのかその二秒後には規則正しい寝息が聞こえ出した。
「……さて、やることも多い」
左腕を前方にかざす。リアを右手で抱えているから。
「さっさと死んでくれ」
次瞬、破壊が世界を包み込んだ。




