五十二
「〇月〇日、思いつく限りのことはやっている。でも、全くクロに勝てるビジョンが見えない。魔法のレパートリーは増えた。魔法頼りにならないように武術や剣術、他にも魔力だけに依存しない闘い方を徹底的に学んだ。私は天才だからすぐに誰も私には勝てなくなった。この研究の資金を稼ぐために始めた冒険者でSランク冒険者にだって選ばれた。歴代最速歴代最年少のSランク冒険者だ。でも、クロに勝てるビジョンが全く見えない。どうすれば良いのだろうか」
アリーシャが死んだ日からそれはつけられていた。アリーシャが死んで一番目に見えて憔悴していた弟子はグレイだった。こんなことを考えていたのか。
「△月△日、人間が身に着けることのできる力では到底クロには及ばない。例えば師匠のような原初魔法、クロの使う暗黒魔法、そういう人智を超越した力が必要だ。こんな簡単なことに長く気付けなかった自分が恨めしい。……悪魔ならば、何か私が身に着けることのできる力を知っているだろうか」
悪魔を召喚するというのは酷く危険な行いだ。召喚する悪魔にもよるが、数十人、主百人単位でようやく成功、そのうえ召喚に加わった半分は命を落とすというような危険度。ただ、アリーシャの弟子であるグレイならそれを一人で行うことは不可能ではないかもしれない。
「無茶なことを……」
もちろん危険がないわけではないが。
「◇月◇日、古代魔法を悪魔に学んだ。素晴らしい力だ。これまで超えることのできなかった限界を超えることができたような気がする。……でも、これではクロに勝てそうもない」
「▽月▽日、何体もの悪魔を召喚して力を求めた。どいつも私が望む力を与えることはできなかった。クロと闘う予行練習に殺してみたが弱すぎる。悪魔にも差があるのだろう。クロは一体どの程度の強さの悪魔だったのだろうか。どれだけ探してもクロという悪魔の文献は見つからないのできっと彼は人間の目につくようなことはしていないのだろう。クロを知る悪魔を召喚したい」
「●月●日、サタンという悪魔を召喚した。文献によればサタンは悪魔の中でも二番目に強力な悪魔らしい。本当は一番強い悪魔を召喚したかったが、どういう訳か召喚できなかった。もしかすると誰かが召喚してすでにこちらにいるのかもしれない。が、それはともかくサタンは私に有益な情報をくれた。古代魔法を習得し、ありとあらゆる力を身に着け、これ以上の成長が見えない私に新しい可能性を提示してくれた。私は……」
聞き覚えのある名前が出た。まさか人間に召喚されることを徹底して拒んでいたサタンの名前が出てくるとは。もしかすると、グレイの奴に力負けして強制的に引きずり出されたのかもしれない。この日記が本当なら、グレイは悪魔相手でもひけをとらない強さを身に着けていたらしいし。
「……私、は……」
「……?」
サタンが示したという新たな道。あいつは悪魔の中でも博識だったから他の悪魔が知らないような特別な方法を知っていてもおかしくはない。
そして、それはグレイが俺相手に勝てるかもしれないと思うほどには成果を発揮したらしい。一体、どんな方法なのか。続きを待つ俺だったが、エリオラがその先を読み上げることはない。ただ、信じられないというような表情でじっと一点を見つめ続けていた。
「私は……他人を喰らうことによって力を得ることにした」




