五十一
「……言い残すことはあるか?」
「酷いな。事情を聞いてくれたりはしないのかい?」
「二人を引き取る時に言ったはずだ。俺に無断で二人にちょっかいをかけたら地獄の果てまででも追いかけて殺すって」
「……あぁこの殺気、久しぶりだね。昔のクロを思い出すよ」
余裕綽々。そんな雰囲気でグレイは笑みを浮かべて俺の殺意を受け流す。
その手には、ぐったりと力なくグレイに抱えられているリアが居た。
「心配か? 大丈夫さ、命関わるような怪我は一つもしてないよ。今はね」
「……」
「私としても、君と真正面から闘うのは避けたい。強くなったつもりではいるけれど、本気になった君に勝てる保証はないからね」
「Sランク冒険者にまでなっておいて実力差も測れないのか?」
とは言ったものの、本気で思っているわけではない。
何かがあるのだろう。グレイに俺の前で立たせるだけの何かが。
油断はできない。
「私が最強になる為の研究」
ただでさえ人質を取られた状況。何が起きても後手に回らないようにグレイの一挙手一投足に注意を払っているとそんな言葉が聞こえた。
「……感心しないな。人の物に勝手に触ってはいけないだろう?」
「……×月×日、師匠が死んでしまった。神に殺されたらしい。師匠は間違いなく誰よりも強い人だった。きっと、神が相手でも一方的にやられたりはしなかったはずだ。でも、死んでしまった。殺されてしまった。私の目標は師匠よりも強くなることだったのに。だから、師匠よりも強くなって神って奴を殺すことにする。そうしたら私は師匠よりも強くなったと言えるから」
エリオラが手に取ったそれを見て、わずかにグレイが顔をしかめた。エリオラにもそれは見えていたらしくゆっくりと聞き取りやすい速度で手に持ったそれを音読し始める。
「□月□日、師匠を殺した神の強さが分からない。そもそも会い方も分からない。分からないことだらけだが、とりあえず当面の目標は決まった。クロに勝てるようになろう。彼は師匠を除けば私の知る最も強い人だから」
それは研究資料というよりは日記のようだった。




