四
「クロは私とアルどっちが大事なの!?」
「お、目覚めたっぽいな。おはよ」
「おはよう!! ってそうじゃなくて!」
半熟トロトロの目玉焼きを一口。たったそれだけでバッチリ目は覚めたよう。いつもの事だ。
ほんの数秒前までは夢現といった様子だったのがまるで幻だったかのように元気に吠える少女にひとまず朝の挨拶をしておく。
「なんだ? 結婚するか?」
「しない! 私の味方してくれないクロなんて嫌い!」
「悪魔的にそういう自己中心的な態度は高評価だぞ」
「ふーんだ!」
白髪碧眼、透き通るような白い肌にまるで精巧に作られた人形のように整った容姿。それからすらりと伸びる細い手足。
それが相まって夢と現実の狭間を漂うリアは不用意に触れたら壊れてしまいそうな儚げな雰囲気を漂わせる美少女だ。
では、夢と現実の狭間から現実に飛び込んだリアはどうか。
「……もはや別人格だよ」
アルが譫言のようにそうぼやく。
半分閉じたような微睡みを帯びていた目はパッチリ開かれ、無感情に色を宿さなかった瞳は好奇心の色に溢れている。人形のような無表情は喜怒哀楽の感情の色に溢れている。
知らない人が見ればそっくりの双子か何かだとでも思うのだろうか。
なるほど。別人格とは言い得て妙だ。
「アル!! ちゃんと自分でご飯食べたんだから宿題見せてよね!!」
「えぇ……。そんな約束した覚え全然ないんだけど。というか、また宿題やってなかったの?」
「当たり前じゃない!!」
「ちょっとリア。それ俺初耳なんだけど? 宿題出なかったとか言ってなかった?」
「……そろそろ行かないと遅刻しちゃうから行くね! アルも行こ!」
「えぇ。僕はもうちょっとゆっくりしてから」
「行くよね?」
「……はい」
なんか知りたくなかった姉弟間の力関係を見せられた。
「行ってきます!」
「行ってきます」
「……うん。行ってらっしゃい」
宿題はちゃんと自分の力でやりなさい。弟を苛めちゃいけません。
色々と言おうか迷ったけれど、とりあえず時間があまりないのは本当なのでひとまず何も言わないことにした。
中途半端になるのも良くないから。帰ってきてから改めて話せばいいだろう。
そんなことを思いながら大きく手を振るリアと控えめにこちらに視線を送るアルを見送った。