四十三
「……悪魔が神様の失敗作なのは、悪魔が神様の言うことを聞かないからよね?」
「そのうえ天使並みの能力を持ってしまっている。だから、悪魔は失敗作なんだ」
話の方向性が見えない。
でも、今は黙ってアリーシャの話に付き合うしかない。それしか俺にできることは無い。
「……私は」
「……?」
「……」
「……」
「……私ね」
「うん」
アリーシャらしくもない歯切れの悪い言い方だった。
何か良くないことが起きているということは察した。
でも、それだけ。それ以上の事はできない。
何かを変えるだけの力も頭もなかった。
だから。
「私ね……人間の失敗作らしいの」
続けたアリーシャの言葉がすぐには理解できなかった。
「……神か。神の奴が……そう言ったのか?」
「……うん。最近、夢に出てくるようになったの」
失敗作。
神がそう形容する理由には心当たりがある。
アリーシャは人間にしては強すぎる。本当に人間なのか疑わしく思ってしまうほどに。
少なくとも、今の人間は原初魔法なんて代物使えるようには出来ていない。
それに耐えられるだけの性能で作られていない。
神の思い通りに、神の思い描いた通りに、ただ神に管理されるだけの存在が人間なのだとすれば、アリーシャの存在は異端でしかない。
悪魔よりも厄介な存在とも言える。
ただ、そんなのは神の理屈でしかない。
「……気にするな。神が必ず正しいわけじゃない」
世界を作ったのは神かもしれないが、世界は神のものではない。
神の思い通りにならないものは失敗作呼ばわりされるなんて、そんなのは世界の方がどうかしている。
「……うん。私もそう思うわ。そう……思ったわ」
どういうわけか腹が立った。今更、失敗作呼ばわりなんてされたところで何かを感じるはずもなかったのに。
酷く神に対しての憎悪が沸いた。
「……アリーシャ?」
「……」
「……おい。アリーシャ……!」
「…………どうかしたのかしら、クロ」
「お前……それ……」
だから、気付くのが遅れた。
いや、違う。もっと早くに気付けるタイミングはあったはずだった。
気付くべきだった。
「なんだか……体がふわふわするわ」
ボタボタとこぼれ続ける赤色に。机で見えないアリーシャの体がどうなっているのかに。




