四十
「どこがだ! 俺には……」
そこから先は言えなかった。喉がしまったのだ。
首輪は主人の意向に従わない奴隷を容赦なく締め上げる。時には殺す。
首輪の解釈では俺の名前はクロになったらしい。
千切れればいいのに。
「クロとシロでとってもいい感じよ!」
「頼むから雰囲気だけで生きるのやめてくれ」
何がいい感じなのか。感受性が独特過ぎる。
「……酷いよリア。なんで僕のこと縛るのさ……」
「アルがいけないのよ。私の方がお姉さんなのに言うこと聞かないから」
「でも、僕達双子だよ?」
「お姉さんに口答え?」
「ごめんなさい」
人間怖い。いつの間にか現れた泣きながら縄の跡のついた腕をさするガキとそれにまるで説教でもするように頭のおかしいことをぬかすリアに思った。
よく考えたら親が頭おかしいんだから子供が普通なはずなかった。
この親子怖い。
「……誰ですか?」
少しジロジロ見すぎたらしい。
疑うような視線を向けてガキが俺に問う。リアとの会話から見てもこいつは弟なのだろう。いや、双子とか言っていたから厳密にはリアと同い年なのだろうけど。
「俺は…………悪魔だ」
ともあれ、聞かれたからには答えるしかない。
もちろんふざけた名前なんて言えるはずもないので種族名で。
「あ、悪魔!? ひ、ひぇええっ。殺されちゃう……!」
「……」
至極真っ当な反応が返ってきた。そうだよ。普通、悪魔なんてのが目の前に居たらこうなるのが普通なんだよ。
にもかかわらず感じる違和感。これは一体何だろうか。
「もう。アルはそんなこと言って! クロはそんなことしないよ! お母さんの味方をする悪い悪魔だけど!」
あぁ、分かった。あれだ。
悪魔レベルに危ない奴が身近にいるのに悪魔如きに怯えているのがしっくりこないんだ。
お前の親と姉は悪魔みたいなもんだぞ。
「悪い悪魔……? しゃぶり尽くされちゃう!?」
何をだよ。
「だから、クロはそんなことしないってば!」
「でも、悪魔は骨が大好物だって本に書いてあったよ!」
犬じゃん。
「そうなの?」
「誤解だ。少なくとも俺は骨には興味がない」
「何になら興味があるの?」
「…………別に、ないな」
「生きてて楽しい?」
「いきなりなんだ」
急に殴り掛かられた気分だ。というか憐れみの視線を向けてくるのやめろ。
「リ、リア! 聞いたでしょ! 何にも興味がないって! それって何にも興味が無くなっちゃうくらい全部手に入れてきたってことだよ!」
「違う誤解だ」
なんなら自分の名前を決める自由すらお前の親に奪われたわ。
「大丈夫だよクロ。私が友達になってあげるから」
だから、憐れみの目を向けるんじゃねえ。




