三十八
「……で、どうするんだ?」
「……?」
「これを着けられた以上、俺はお前に逆らえない。だから、一方的に言うことを聞かざるを得ないってわけだ」
というか、こんなのがあるなら初めから使えばよかったのに。いや、大人しく着けられていたとも思わないけど。
「お前じゃないわ」
「……あ?」
「私の名前はアリーシャよ。お前じゃないわ」
「……そう呼べってことか?」
「好きなように呼んでいいわよ!」
じゃあ、お前でもいいだろ。
なんて言えば状況は悪化しそうだ。
「…………アリーシャ。お前は俺をどうしたいんだ?」
「……? どうもしないわよ? ただ、貴方と友達になりたかっただけだもの」
「……」
いや、今更か。
こいつはずっとそう言っていた。
何か他に目的があるのかもしれないが、それを俺に少なくとも今言うつもりはどうにもなさそうだ。
だったら、今は大人しくそれを受け入れておいた方が得策だろう。
認めたくないけど、俺ではこいつにはどう転んでも勝てそうにないからな。
「ねぇ」
「あ? ……分身? いや……なんか縮んだか?」
今後の方針、とりあえず状況を受け入れてこの先どうすれば一番ましな結果にまでたどり着けるか。
そんなことを考えていると背後から服を引かれた。振り返った先にはアリーシャが居た。元々小さいとは思っていたが、なんか更に半分くらいの大きさになっている。
「……あなただぁれ?」
「…………は?」
違うな。これは違う。
瓜二つではあるけれど、アリーシャではない。
舌足らずな声におおよそを理解した。
「リア! 危ないから来てはいけないと言ったわ!」
「……娘か」
ここまで似ていて無関係ということはないと思っていたが、予想通りだった。
「ねぇねぇ」
「……なんだ?」
「あなたはだぁれ?」
「…………悪魔だ」
「……悪魔……? ……お名前?」
「……まぁ、そんなところだ」
少し迷った。
返事を返して良いものか。
悪魔と自分の子供が会話をするなんて普通の親なら嫌がることだ。とはいえ、無視すればそれはそれで余計な反感を買いかねない。
アリーシャに悪感情を持たれるのは避けたかった。
人間は気まぐれな生き物だから。感情一つで殺されてはたまったものではない。
だから、迷って。それから答えることにした。
「リア! 聞いているの!?」
ただまぁ、当のアリーシャの怒りはどちらかと言えば俺ではなくて娘に向いているようで。
というか、こいつこれで怒ってるのか?
腰に手を当てて、頬を膨らませたその姿を見るに怒ってはいるのだろうけれど、本気でこれで怒っていると捉えていいのだろうか。
何かを試されているのだろうか。
「うぅ……お母さんがイジワルする……」
「なっ!? 悪魔さん! 貴方はリアの味方なの?」
「待て。その流れはおかしいだろ」
冗談かな。と疑いたくなるような怒り方をするアリーシャに若干の困惑を覚えていたけれど、どうにもそれは本気で怒っている奴だったらしく、怒りを向けられたリアがこそっと俺の背後に回りこむ。
そしてなぜかそんなリアの行動を見たアリーシャは俺に怒りを向ける。
見れば分かるだろ。
どう見たって俺は巻き込まれただけだろ。




