三十七
「……降参する?」
「…………」
降参?ふざけるな。
俺は生まれてからこれまで神の奴以外には負けたことがないんだ。
こんな人間に負けてたまるか。
「……今のは練習だ」
「……でも、その体じゃ動けないでしょ?」
「………………三十分待ってくれ」
「……貴方の負けじゃダメ?」
「ダメ」
いや、だってこれが本番とか聞いてなかったし。
とりあえず、いったん仕切り直しにしないと。
「次は本番ね?」
「問題ない」
ともあれ治るまで待ってもらった。
そして、再戦。
次は左腕が飛んで右足がぐちゃぐちゃになっていた。
聞いた話によると強化魔法で自身を強化して俺の目に追えない速さで動いて、俺の腕を引きちぎれるだけの威力をもった拳を叩きつけて、俺の足をぐちゃぐちゃにできるだけの威力をもった蹴りで足を砕いて地面に背をつけさせていたらしい。
悪魔の体はそう簡単に壊れないように頑丈に出来ている。人間如きの強化魔法でどうこうできるような柔な作りはしていない。
使われた魔法は原初魔法。
かつて人間は古代魔法と呼ばれる今の魔法とは比較にもならないほど強力な魔法を使っていた。強力であると同時に危険な魔法であったために結果的に文明を滅ぼすことになって今のそれなりに安全で誰にでも使うことのできる魔法に至る。
原初魔法とはそんな古代魔法の元となった魔法だ。
早い話、古代魔法よりも強力で古代魔法よりも取り扱いの難しい魔法。暗黒魔法や聖天魔法でさえも原初魔法に比べれば見劣りする。
そんな魔法だからこそ、俺の体を豆腐みたいにズタボロにできたというわけだ。
ともあれ、俺は完全敗北を喫した。
「……」
しかし、考えてみても欲しい。
悪魔相手に口約束なんて何の意味があるだろうか。
このままバックレてやればいいじゃないか。
「って言うだろうからって」
「……クソ天使の入れ知恵かよ」
人間相手に負けを認めるのは心苦しいところもあるけど、意地張っていると面倒なことになりそうだったので逃げてやろうとしたら首輪をつけられた。
奴隷や魔物なんかが主人に逆らわないようにして隷属させるためのものだ。
もちろん悪魔をそんなもので抑えられるはずもない。
でも、天使が神聖な力を込めたとかいう奴だと話は別。
これは天使と神以外なら例外なく首輪を着けた者に逆らえないようにして隷属させる代物。
それを着けられた。つまり逃げることもできないというわけで。
「やぁ、ルシフェル。私の事は覚えているかい?」
「…………誰、お前」
「…………そうか。忘れたという体でいるのだね」
「いや、普通にお前なんて知らないんだけど……」
さて、どうしたものかと考えていると声が掛けられた。目障りな翼を隠そうともせずに出しているところを見るに天使なのだろう。
ただ、見覚えがあるかと問われるとどうだろうか。
基本、天使なんてどいつもこいつも悪魔を見たら見境なく襲って来るからこっちも特に何も考えずに殺すことにしている。だから顔なんていちいち見てない。
そもそも俺のところに来た奴は範囲攻撃で欠片も残らないように消し飛ばしているから生き残りがいるとも思えない。
「シロはね、貴方のことを殺そうとして返り討ちにあって逃げ帰ったことがあるらしいの!」
「……へぇ」
「主!? その言い方は少し語弊があります! この怪物、一撃で他の天使を跡形も残らない勢いで殺してしまったのです! 戦略的撤退です!」
居たらしい。大した防御力だ。
聖天魔法の防御ですらほとんど防げなくて驚いた顔して死んでいく奴がほとんどだったんだけどな。




