三十六
「……分かった。じゃあ、やろう」
だったら、教えてやればいい。
「でも、うまく加減できるか分からないから気をつけろよ」
さすがに突っかかって来る下級悪魔を小突くのと同じ勢いでやるわけにはいかないだろう。たぶん、というか絶対に死んでしまう。
魔法はうまく加減ができる様な代物でないし、できるかぎり脱力して足とかをちょっと突くだけにしよう。それくらいならさすがに死んだりしないだろう。
「あら、もう勝ったつもりでいるのね!? そういうのは死亡フラグって言うのよ!」
「はいはい。分かったからかかってこい」
どこでそんな言葉聞いたのやら。少なくともこの世界の言葉ではなかったはずだけど。
まぁ、どうでもいいことだ。
格の違いを見せつけて帰ろう。悪魔相手に口約束なんて無効だからな。
「…………」
「降参する?」
……気付けば地面に背がついていて、右腕が飛ばされていた。ついでとばかりに左足はぐちゃぐちゃに折られていた。
そして、首には小さい手が。しかし、何かまずいと思わせる手が添えられていた。
「…………え?」
意味が分からなかった。
始まってすらいなかったはずだ。だというのにすでに終わっていた。
たしかに俺はかかってこいと言った。
それに嘘偽りはなかった。不意打ち狙いで襲ってくることも想定に入れていて、仮に来ていたとしてもカウンターで一撃浴びせてやるつもりでいた。
油断が無かったとは言わない。人間相手だ。油断するなという方が難しい。
ただ、それでも、こんな無様な目にあうことなどあるはずもなかった。
何をされたのかも理解できず、何が起きたのかということすら理解できない。
そんなことが俺にあるはずもなかった。
俺は自惚れでもなんでもなく最強の悪魔だ。俺に何をされたのかも理解できずに殺される奴がいることはあっても、俺がその立場に立つことなんてあるはずがない。
相手が俺を作った神のような奴ならともかく、ただの人間にそんなことができるはずがない。
「時間停止か? ……いや、その程度なら俺にだってできる。これはそんな子供だましの魔法じゃない」
では、一体。
一体、こいつは何をした?




