三十四
そもそも悪魔を友達にしようなんて発想すること自体がどうかしているんだ。
対価を求めるのがおかしいとか言われる筋合いはない。だいたい、友達ってなんだ。あくまで契約だろうが。
「むっ! 私は子供じゃないわ! 立派な大人なんだから!」
「はいはい立派立派。いいから対価に何を寄越すつもりかさっさと答えろ」
疲れた。というわけでもないが、あまりにもいつもの召喚とは勝手が違いすぎてどう動けばいいのか分からない。
まさかと思うが、世の悪魔はわりとこんな感じの呼び出され方が多いのだろうか。さすがにないか。
「友達に何かを貰うことを求めるのは良くないわ」
「このガキ……」
どう足掻いても対価を支払うつもりはないらしい。
これ絶対俺以外の悪魔呼んでたら殺されてただろ。
「でも……そうね。悪魔さん。貴方は何が欲しいの?」
「あ? 俺が欲しい物……?」
「えぇ、そうよ。せっかくあげるなら貴方が欲しい物をあげたいわ」
「……へぇ」
欲しい物、ね。
そんなもん生憎生まれてこの方ただの一度もできたことは無いんだが。
……まぁいいか。
「だったら、俺は……」
「俺は?」
「お前の魂が欲しい」
こう答えれば大概の奴が怖気づく。
これまでこれに微塵の動揺も見せなかったのは国を滅ぼして欲しいと願った魔導士だけだった。なんでも王族に家族も恋人も奪われたのだとか。
そのくらいの覚悟がないとこれには怯える。それもそうだ。魂を喰われるなんてまともに生きている人間なら絶対に起こり得ない最期なうえに最悪の最期でもあるのだから。
死んだ後も魂は巡り、浄化されやがて再び命を持つ。そんなことを根拠もなく信じている連中であっても、魂を喰われてしまえばどうしようもない。本当にそこで終わりだ。
実際のところ、死んだあと人間がどうなっているのかなんて俺は知らないが、それでもいずれはまた別の形で命を持つことができるかもしれないという可能性とそれすらありえない完全な終わりではいちいち考えるまでもなく前者が良いに決まっていることくらいは理解できる。
そして、だからこそ、怯えた奴の七割は契約を諦める。
その一線すら越えてしまう奴というのはそれこそ、そんな妄想じみた信仰にすがることすらできなくなってしまったような、全てに絶望してしまったような、そんな奴だけだ。
少なくとも、目の前のガキはそこまで堕ちてはいないだろう。目に生気がある。まだ、こちら側に踏み込むほど堕ちていない目だ。
だから、そう答えた。
そう答えれば引き下がるという確信があったから。
「……ふーん」
ふーんて。
「いいわよ!」
「良くないわ」




