二十七
リアが攫われたらしい。
学校を抜け出して、ケーキを食べに行って。学校に戻ろうとしたところで顔を隠した男に襲われたらしい。
リアとアルは優秀だ。同年代で二人に及ぶだけの才能を持った人間はたぶんいない。というかあの二人は単純な実力という意味では俺が知っているAランク冒険者と比べてもそう劣るものではない。
だが、そんな二人がその男には手も足も出なかったらしい。全ての攻撃はあっさりと防がれ、相手の攻撃はこちらの防御をことごとく砕いたとか。そんな状況で敗北を悟ったリアはせめてアルだけでもとアルを魔法で適当に転送させた。
そして、何とかその場から逃げることに成功したアルは急いで俺のところに助けを求めに来た。
「……」
一体誰がリアを攫ったのか。リア一人でもそこらの人攫いに捕まるようなことはありえない。アルと二人だったとなれば尚更だ。二人を誘拐しようと思えばそれこそAランク冒険者であっても一人では到底足りないと言わざるを得ない。
二人を相手に圧倒できる人間なんて限られている。
でも、仮にその観点からこんなふざけたことをやった奴を突き止めたとしてもそれはリアの救出には繋がらない。
今、何よりも優先ですべきことは何か。
「…………たしか、聖天魔法には人探しの魔法があったはず」
リアの居場所を見つける。
そうすればあとはどうとでもなる。
相手が誰であっても、必ず叩き潰してやる。
「私の質問に答えるのが先だ」
求められていることは何か。本人はよく理解しているらしい。
そして、そのうえでそれすら交渉の材料にするらしい。
「リアの命が危ないかもしれないんだ。先にリアの居場所を」
「ダメだ。それに私達聖騎士の魔法はそうおいそれと使っていい物ではないんだ。まずは確認を取らないといけないからどちらにせよそれまでは使えない」
「……そんな時間はないだろ」
「だったら、諦めるんだな。なに、心配しなくてもアリーシャ様のご息女だ。どうなったとしてもそう悪い扱いは受けない」
「……聖騎士様は、子供が攫われた程度じゃ動かないってことか?」
本気で言っているのかどうかは分からない。少なくとも、俺がこれまで見てきた中でのエリオラという人間は立場なんかに縛られず、困っている人間がいれば助けるような聖騎士だった。
だから、それは俺に対して圧力をかけるためのブラフに過ぎないのかもしれない。俺に隠し事をさせずに話させるためにとった行動に過ぎないのかもしれない。むしろそう考えた方が自然だ。
でも、分かっていても、気分の良い発言ではなかった。
「そうは言っていない。ただ、聖天魔法は決して聖騎士の個人的な理由で気軽に使っていい代物ではない。だからこそ、聖天魔法を使うだけの理由を私にくれないと困るという話をしているんだ。例えば、クロという悪魔の正体とか、な」
「……リアの身の安全の保障は聖天魔法を使うだけの理由にはならないということか?」
「そうは言わない。だが、お互いの為にここは折れるべきなのではないか? こんなことをしている間にもアリーシャ様のご息女は危険な目にあっているかもしれない。意地を張っている場合ではないはずだ」
「……」
俺が何者か。自分の中ではすでに出ている結論に対しての答え合わせ。
それをエリオラは望んでいる。それは聖騎士の仕事としてかそれともエリオラという一人の人間の好奇心によるものか。
ともかく、彼女は今も命の危険に晒されているかもしれないリアを一秒でも早く救う事よりもそれを優先している。




