二十六
「あなたは言ったはずです。暗黒魔法の名前は知っていても効果は知らないと。間違いありませんね?」
「……はい」
「では、どうして【虚無ノ黒】の効果が消すことだと知っていたのですか?」
「……は?」
「だって、聞いたじゃないですか。ブレスを『消して』、そのあとどうしたのかって」
「……っ」
ヤバい……ミスった。
「……そんなこと言いましたっけ?」
「しらばっくれられると思うな」
「ひぇっ」
言った言ってないの水掛け論。
そこに持ち込んでしまえば話は振り出しに戻る。そう思ったのだけど、残念ながらそれを許すほどエリオラは甘くないらしい。
突きつけられた剣に軽く悲鳴を漏らしておく。
意味があるのか怪しいところだけど、無害な悪魔アピールとして。
向けられた視線の厳しさが変わらないのを見るに、やはり無駄な足掻きだったらしい。
くっそ、悪魔にももうちょっと優しくすべきだと思うぞ。俺は。
「さぁ、答えてもらうぞ」
「……ハハ」
どうしたものか。
物証はない。エリオラにとっては俺とノワールが一致しているだろうが、それを指し示す明確な証拠はどこにもない。
とはいえ、このまま何も知らない、何も関係ないというのを貫けば、エリオラは納得するだろうか。
するわけがない。十中八九問題が大きくなる。
最悪、騎士全体を動かして俺とノワールが別人であるかどうかを確かめるなんて騒動にもなりかねない。
誤魔化す手立てがないわけではないが、そういうのはできる限り避けるべきだ。別の問題の原因になりかねない。
いや、ほんとどうしたらいいのやら。
正直に本当のことを話すわけにもいかないし。
話さないと納得しそうにない雰囲気だし。
いっそのこと丸め込めないだろうか。無理か。
洗脳すればあるいは……さすがに教育に悪いか。
「クロ!!!」
「……っ。……どうした、アル? その恰好は? 何があった?」
ボロボロのアルが駆け込んできた。
瞬間的に思考は目の前の聖騎士様をどうするかよりもアルがそうなった原因を突き止めることへと切り替わる。
「クロ……! クロ! リアが! 僕を逃がそうとしてリアが……! 助けて!!! 僕がちゃんと止めてたら……! 僕のせいでリアが!」
「待て。落ち着けアル。落ち着いて、ちゃんと順序立てて話すんだ。何があったんだ? いや、順序立てなくていい。とにかく何があったのかだけ教えてくれ」
少し大人びたかと思っていたけど、どうやら泣き虫はまだ治ってないらしい。
混乱したように脈絡なく言葉を紡ぐアルに俺はそんな場違いなことを思った。そんな現実逃避じみたことをやっていないとこちらまで冷静さを失いそうだった。
「リアが……リアが攫われた……!」
「……っ」
誰が?
どうやって?
どんな風に?
何を目的に?
なんのために。
それら全部を呑み込んで。
「…………そうか」
一度深呼吸をして吐き出した言葉は動揺を隠しきれずに震えていた。




