二十五
「…………」
……待て。どういうことだ。
見られていた?仮に見られていたとしてそれはどこから?
「この魔法を知っていますか?」
「……いえ、俺にはとても使えるような代物ではないので」
「そうですか。ところで顔色が優れないように見えますが」
「生まれつき病人顔なんです。気にしないでください」
たしかなのは【虚無ノ黒】を見ていたということだ。
見ていなければわざわざそんな魔法のことを持ち出したりはしないだろう。
ただ、それならそれでおかしな点がある。
どうして青龍ではなくワイバーンだなんて言うのだろうか。何か狙いがあるのか。単純に俺の動揺を誘うのが目的か。仮にそうでないとしたらどんな可能性が考えられる?
「……」
「……どうかしました?」
「いえ、人は嘘をつこうとしている時、無意識に右上を見てしまうものだそうですよ」
「……俺は悪魔ですから」
「そうでしたね。だから、右上を見ていても全然不思議なことは無いですね」
「無いですね」
これはいよいよ迂闊なことは言えそうにない。
というか見ないで。怖い。
「…………そのあと、どうしたんですか?」
「……?」
「そのあとです。ブレスを消して、そのあと、ノワールは一体どうしたんですか? 防御だけでは勝てないでしょ?」
「……えぇ。彼はそのあと渾身のブレスをあっさり防がれ困惑しているワイバーンの頭を掴んでこう続けたのです。【煉獄の黒】。これも暗黒魔法ですね。知っていますか?」
「……な、名前くらいは。でも、使えませんよ」
「どんな魔法なのかは【虚無の黒】と同様に知らないと?」
「はい。知りません」
いや、ほんと、どこまで見られてたんだ。というか気を失ったというのももしかしてフリだったのか?
だとしたら完全にやられた。
こんな事だったら暗黒魔法なんて使わずに時間かけて倒せばよかった。
まさかこんな面倒なことになるとは。
「なるほど。そうですか」
「……暗黒魔法を使っていたというのなら、ノワールは悪魔で間違いないと思います。でも、それは俺ではないですよ。だって、暗黒魔法なんて悪魔の中でも使える奴は限られますから。俺みたいに碌に名前も知られてないような悪魔に仕える代物じゃないですよ」
「知っています。悪魔について学んだときに暗黒魔法についても学びましたから。聖天魔法が守護と癒しの聖なる魔法だとすれば、暗黒魔法はその対極に位置する破壊と消失の悪なる魔法。……恐ろしい魔法です」
「……ハハ」
悪魔の立場的にその評価のされ方は結構きついところがある。
「だからこそ、私はよく覚えています。暗黒魔法の名を。その効果を」
射る様な視線が言葉と同時に向けられた。
心臓に悪いからやめてほしい。




