二十三
「何度でも来ます。毎日来ます。毎日来て何時間であろうと居座り続けます。ちなみにこれは聖騎士の職務を果たすためのもので正式な手続きを踏んだものであるのであなたに否定することはできません」
「タチの悪いストーカーでももうちょっと控えめに行動してくれますよ?」
怖すぎる。あと、国家権力をそんなしょうもないことに濫用しないでほしい。
「あなたは悪魔です」
「はい」
「私にとってはそれだけで処分するには十分すぎる理由です」
「聖騎士様ともあろう御方が私情で動くのは良くないのでは?」
処分って何する気だよ。怖いな。
「そんなこと言われなくても分かっています。だから、きちんと法の範囲内であなたを処分できるように毎日見張っているじゃありませんか」
「努力の方向おかしくないですか?」
だから、処分ってなんだ。
「私は人一倍悪魔という存在に注意を払っているだけです」
「それは良いことだと思いますけど……」
注意の払い方が物騒すぎる。
「……私だけが悪魔を警戒しているわけではありません。人は多かれ少なかれ悪魔という存在に恐怖と警戒を抱いています。それはたとえ名前も碌に知られていないような悪魔であったとしても例外ではありません」
「……分かっています」
「あなたがこの国で住むことを許されているのは、かの大魔導士アリーシャ様が召喚した悪魔であること。そして、そのアリーシャ様本人があなたの安全性を保障しているからに他なりません」
「……」
かつての主の名を聞いたのはいつぶりか。
師匠だとかお母さんだとか、そういう呼び方をされているのは聞くこともあったけど、名前を誰かが呼んでいるのは久しぶりに聞いた。
誰もその名には触れようとしなかったから。
あいつは希望そのもので、死んでしまった希望のことなんてできることなら誰も思い出したくはなかったから。
「……聞いていますか?」
「……はい。聞いてますよ」
少しぼうっとしていたらしい。怪訝な表情を浮かべるエリオラの姿があった。
「あなたは悪魔です。それはたとえアリーシャ様がどれだけあなたが安全だと保障したところで変わるものではありません。だからこそ、あなたが正体不明の冒険者として活動しているのであれば、それは到底看過できるものではないのです」
「その理屈は分かります。以前から釘を刺されていましたから。でも、どうしてその正体不明の冒険者が俺だと思うのかの説明にはなっていませんよ」




