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かつて最凶と恐れられた悪魔の話  作者: 日暮キルハ


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21/56

二十

 昼休み。

 昼食を終えたのち、余った時間を友人たちの他愛もない会話を聞きながらのんびりと過ごす時間は嫌いじゃない。


「……アル。聞いてる?」


 姉が友人たちの輪に割り込んできていなければの話だが。


「……ごめん。聞いてなかった。何?」


「もうっ! 次、私の話聞いてなかったらアルが毎日つけてる日記みんなの前で読むからね!」


「なんでそんなことを平然と言えるの?」


 そもそもどうして日記をつけていることを知っているのかなんて野暮なことは聞かない。僕にとって双子の姉はそういう存在なのだから今更気にしたところで仕方ない。

 たとえそれがどれだけ理不尽なことであったとしても受け入れるしかない。抗う術はない。


 できるのは可能な限り姉の機嫌を損ねないようにすることだけ。

 十四年も一緒に生きていたら嫌でも学習する。

 クロが聞いたら絶対心配するだろうから言わないけど。


「……はぁ」


「どうしたの、アル?」


「……いや、何でもないよ」


「むむっ。お姉ちゃんに隠し事?」


「生きていたら人間誰だって隠し事の一つや二つはあるよ」


「……つまり、弟は姉に逆らっちゃダメってこと?」


「どういう思考回路してるの? もしかして思考回路死んでる?」


 いつも考えるよりもまず行動な姉だとは思っていたけれど、なるほど思考回路が死んでいたのか。


「それよりリア。何か僕に言おうとしていたんじゃないの?」


「あ、そうだった! あのね、アル!」


「うん」


「ケーキが食べたいから買ってきて!」


「さっきお弁当食べたばっかりだよね? 僕の分まで奪って」


「あれは近くにいたアルが悪い」


「発想が野蛮過ぎるよ……」


 学校の昼休み。食事を終えてデザートが欲しくなったというところだろうか。

 その理屈自体は分からないでもないけれど、もうじき午後の授業が始まるこのタイミングでそれを言い出すのはおかしい。人に買ってこいなんて言うのはもっとおかしい。


「とにかく! 食べたいの!」


「知らないよ……」


 一応抵抗は試みる。でも、無理だろうなぁ。


「じゃあ、クロに帰ってから作ってもらう!」


「これ以上クロの女子力あげるのやめて」


 頼めば普通に作っちゃいそうなのが怖い。昔のクロはもっとかっこよかったのに。今じゃその頃の面影は微塵もない。


「ケーキを作らないクロはクロじゃないよ」


「それ聞いたらクロ泣くよ?」


 というかその理屈だと昔のクロはリアにとって何なのだろうか。


「もう……じゃあ、もういいよ! 一緒に抜け出して買いに行こ!」


「え、行かないけど。というかなんで妥協してやったみたいな雰囲気出してるの?」


「なんで行かないの!?」


「逆に何でそんな言い方で行くと思ったの?」


「私と授業どっちが大事なの!?」


「授業だけど」


「この人でなし!!」


「えぇ……」


 今のどこに人でなし呼ばわりされる要素があったのだろうか。どちらかと言えばリアの方が割と人でなしなんじゃないだろうか。

 だいたい「私と○○どっちが大事なの!?」っていうのは姉弟間でやるようなことじゃない。


「……なぁ、アル。次の授業グループワークだからお前が居ないと」


「分かってるよ。どっちにしろリアの無茶に付き合うつもりなんてないし」


 左隣から掛けられた声。それは入学以来の友人であるフレイからのものだった。

 人手が必要なことをやっているので僕が居なくなってしまうのはフレイとしてもつらいところだろう。


「えぇ、フレイ君はアルの味方するの……?」


「おい、アル。リアちゃんがケーキ食べたいって言ってるのにグループワークとか言ってる場合じゃないだろ」


「なんだこいつ」

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